この問題に対して、1994年GATTの特別作業部会である「環境保護と国際貿易に関するグループ」がレポートを提出。その中で以下の2つの解決策を提示した。
1 WTOとMEAsの間で矛盾が生じた場合は、GATT第25条を適用し、加盟国の3分の2の多
数が認められればMEAsを優先する。
2 WTO協定の中にMEAsの貿易措置を認める条項を加える。
これらはいずれも有効な方法であるが、問題点もある。1のようにケースバイケースで問題に対応する場合には、どの程度なら3分の2以上の賛成を得られるかという予測が立たない。そのため2のようにWTO協定の中に規定されている場合に比べると、MEAの条項に貿易措置を加えるのが難しくなる。さらに、WTOではそれぞれが自国の利益を優先する手前議論の難航が予測され、時間がかかる上に、国力の違いによって公平な決定も保障できない。
2の場合は条約を改定する作業になるため、非常に困難である。さらに、MEA交渉の中で今後生じる可能性のある幅広い問題を十分にカバーする基準を設定することは難しい。WTOの一般理事会の傘下に置かれ、貿易と環境の問題を扱っている「貿易と環境に関する委員会」(Committee
on Trade and Environment :CTE)では、これらの案に対する議論が行われてきた。CTEの最初の指令は様々な「環境と貿易」に関する問題を審議しその結果を第一回閣僚会議に報告することであったが、第一回閣僚会議の時点ではこの問題の結果は出ず継続して審議されることになった。そしてドーハで行われた第四回WTO閣僚会議の閣僚宣言において、この問題は限定的ではあるが今後交渉を行っていくことになった。
しかし、CTEは、この問題を解決するうえでは限定的な役割しか持っていない。CTEは
WTO上の権利や義務を変えることなく、MEAsとの整合性を取ることを目的としているため、そもそもWTOのもたらす環境・社会的影響力を緩和させるものではない。また、CTEにおいてWTOとMEAsとの相違点が指摘された場合、MEAsを改悪させる要素となることが懸念される。したがって、WTOとMEAsとの整合性の問題は、WTO以外の場で議論されることが必要である。
2002年8月には、南アフリカのヨハネスブルグで世界首脳会議(WSSD)が開催された。
実質的に先進国の意向を反映しやすいWTOの運営を推進したい米国などの圧力から、サミットの成果となる世界実施文章の貿易の章には、「WTOの支持の下、WTOとMEAsの整合性を取る」という表現が盛り込まれた。つまり、WTOとMEAsとの整合性の問題は、CTEに委ねることが確認されてしまった。これは、ヨハネスブルクサミットの大きな失敗の一つである。環境問題を解決させるための実行力のある国際ルールをつくるためには、CTEにおいて、
限定的な解決策を模索するのではなく、WTO以外の場において、各国がWTOよりもMEAsを優先させることを合意することが必要である。 |