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2012年 6月16日
国際青年環境NGO A SEED JAPAN
金融機関の社会的責任に関する公開アンケート(2011年度)
回答結果の講評


 昨年実施しました「金融機関の社会的責任に関する公開アンケート」の講評を作成いたしました。
なお、公開アンケート本文及び回答結果につきましては、過去のWebページをご参照下さい。

・公開アンケート本文
・回答結果(設問ごと)
・回答結果(金融機関ごと)


<預金者に向けて>

 我々預金者・出資者が明確なビジョンを持ち、おカネに意志を持たせることが必要です。 どのような社会を目指したいのか、そのために何を選択すべきかを常に前向きに考え意思表示をすることで、 社会の仕組みをより良いものとしていくことができます。
 預金・投資・融資を通じて金融機関と関わりを持つことは、その意思表示の第一歩です。 今回の調査および講評は、その意思表示をする際の手がかりとなることを目的に作成しました。 興味をお持ちになった金融機関については、より詳しい情報を、時間をかけて未来を描きながら探してみてください。 そうして、「だから私はこの金融機関に預金をする」と言っていただければ幸いです。



講評の構成

※下記の項目名をクリックすると、該当する設問の講評の箇所に移動します。

視点1.CSRビジョン
視点2.環境への取り組み
視点3.地域経済への取り組み
視点4.社会的事業への取り組み
視点5.情報公開への取り組み
CSRに対する課題について


視点1.CSRビジョン

  • 都市銀行は他の金融機関に比べ、しっかりとしたCSRビジョンを作成し、 CSRレポートやWebサイトなどで情報発信している。 今後は公開されているCSRビジョンと実際の行動がどれくらい一致しているか、 近づいているか察することが必要になってくるだろう。
  • 地方銀行、信用金庫は営業地域の発展に貢献していくことをビジョンに掲げているところが多い。 東京などの都市部とその他の地方との経済的格差は拡大する中、 その役割に期待しつつ応援したい。
  • 労働金庫は、他の金融機関とは趣が異なり、 「人々が喜びをもって共生できる社会の実現に寄与する」というように、 「地域の発展」よりも「勤労者のための非営利・協同の福祉金融機関」である点が特徴的である。
  • トマト銀行、福岡銀行、滋賀銀行は、本業でCSRを果たすことを明確に表明しており、 今後もこのような金融機関が増えることが期待される。 また、東京スター銀行は他の金融機関とは少し視点が違い、 「お客さまをお金の心配から解放する事をお手伝いする事が CSRを果たすこと」だと考えている。

・金融機関のビジョンの例
三井住友フィナンシャルグループ 三井住友銀行では、「最高の信頼」を獲得するためには、 「お客さま」「株主・市場」「社会・環境」「従業員」の4つのステークホルダーに価値を提供し、 その結果として社会全体の持続的な発展に貢献していくことが不可欠であり、 それが三井住友銀行の「社会における責任」、すなわち 「CSR(Corporate Social Responsibility)」であると考えています。
滋賀銀行 当行は、近江商人の経営哲学である「三方よし」の精神を継承した行是 「自分にきびしく 人には親切 社会につくす」をCSRの原点とし、 「地域社会・役職員・地球環境」との「共存共栄」を追求する 「CSR憲章」の実現に努めています。
とりわけ、環境を主軸とするCSRの追求を「銀行経営の要諦」と位置づけ、 経営に環境を取り込む「環境経営」と、金融に環境を組み込む「環境金融」を実践しています。
城南信用金庫 信用金庫は、「人を大切にする」「思いやりを大切にする」という相互扶助の精神が原点であり、 世の中を良くしていこうという考え方が根底にあります。 当金庫では、こうした信用金庫の原点に立ち返り、 地域の方々を守り、地域の発展に奉仕する「社会貢献企業」として、 「中小企業の健全な育成発展」「豊かな国民生活の実現」 「地域社会繁栄への奉仕」という3つのビジョンの実現に向けて邁進しています。
中央労働金庫 <中央ろうきん>は、勤労者のための非営利・協同の福祉金融機関として、 金融サービスを通じた社会応援運動とともに、 「ろうきん理念」の実現のため、働く人の暮らしや福祉の向上、 安心できる社会の創造を目指し、社会貢献活動に取り組んでいます。
(A SEED JAPANが実施した金融機関への公開アンケート回答結果等より作成)


視点2.環境への取り組み

(1)環境に貢献する預金商品/投資商品における取り組み
貢献の手法として、寄付・投融資・個人の環境配慮行動の促進・その他、という4分類を挙げた。

1)寄付と関連づけた取り組み

  • 寄付額に関しては、単年度の金額を記載した金融機関、 累計を記載した金融機関が混在しており、同列での比較は困難だが、 預金残高に対して一定割合を寄付する形式をとっているところは、 記載された限りでは預金残高の0.01%〜0.03%としているところが多い。 一方で、中国銀行からは「寄付金付定期預金は、預金集めツールの側面が強く、お客さまの志を生かす商品になっていないのではないか」 という疑問の声もあった。
  • 三井住友フィナンシャルグループ、京都銀行は世銀債ファンドへの投資額に応じた寄付を行っている商品を 挙げているが、世銀債による融資先の実態は注意深く見る必要があるだろう。 融資先に基準を設けないという点に関しては、一定額を寄付に充てる定期預金などの金融商品にも当てはまる。
  • 他に、ファンドの購入額や、デビットカードおよびクレジットカードの利用額に応じた寄付などを行っている金融機関もあった。
  • 今回、東日本大震災をうけて義援金として寄付をする商品も多く挙げられた。

2)投融資と関連づけた取り組み
何らかのことを行っている(または、行っていた) 都市銀行(みずほ、三菱UFJ、三井住友、りそな)
地銀(荘内、三重、滋賀、京都、中国、福岡、東京ス、香川)
信金(知多、京都中央)、労金(中央、北陸)
SRIファンド(世銀債ファンドを除く)を扱っている 都銀(みずほ、三菱UFJ、りそな)
地銀(福岡、東京ス)
信金(知多、京都中央)
労金(北陸)
世銀債ファンドを扱っている 都銀(三井住友)
地銀(三重、京都、香川)
環境配慮型の独自の融資制度がある 地銀(荘内、滋賀、中国)
労金(中央)
(A SEED JAPANが実施した金融機関への公開質問状回答結果等より作成)

  • 預金商品/投資商品ではないが、滋賀銀行の環境格付け・生物多様性格付けの取り組みは、画期的なものといえる。 これは、融資先における環境や生物多様性への取り組み度合いを独自の基準で評価し、 それに応じて金利優遇するものである。
  • 各金融機関の取組みは数多く紹介されており、どれも興味深い。 しかし今後は、融資スキームや実績についてのより詳細な情報公開に期待する。

3)個人の環境配慮行動と関連づけた取り組み
環境配慮型製品の購入に対し、ローン金利や定期預金の金利を優遇 地銀(滋賀、京都、中国、神奈川)
信金(西武、淡路、城南)
労金(北海道、四国、九州)
(A SEED JAPANが実施した金融機関への公開質問状回答結果等より作成)

  • 環境配慮型製品の購入者に対し、ローンや定期預金の金利を優遇する制度は 個人の環境配慮行動にインセンティブを与える好例といえる。 たとえば城南信金は、10万円以上の設備投資を行った取引先に対して定期預金の金利を優遇することで、 環境配慮型製品購入のインセンティブを与えている。 定期預金の優遇はローンを組まない顧客も利用でき、投資の最低金額も10万円と低いので、 ローンの金利優遇以上に幅広くインセンティブを与えることが可能だと考えられる。 ただし、「環境配慮型製品」にオール電化住宅を挙げている金融機関もあるなど、 対象となる製品の選定には注意する必要がある。
  • 東京スター銀行は、「CO2削減に貢献するコモディティの指標に連動して金利が決定される定期預金」 を挙げていた。具体的には、石油の代替エネルギー原料となるとうもろこしや砂糖、 ハイブリッドカーのバッテリーに使用されるニッケルや自動車の車体軽量化に貢献するアルミニウムといった、 商品の価格に金利を連動させるものである。 「環境問題をより身近に感じ、関心を高める契機としていただきたい」 と述べられているがこれが環境配慮につながるのかは、検討を要する。

4)その他

  • りそな銀行の「遺言信託での寄付に対する手数料の優遇」は興味深い仕組みである。

(2)環境配慮型の投融資の取り組み

  • (様々な独自基準)
     環境に配慮した経営を行う企業に対し低利で融資を行うなどの取り組みが、多くの金融機関に見られた。 その条件は各金融機関が独自に定めており、興味深い。 たとえば、トマト銀行は「環境に配慮した事業者に対し、 @CO2排出削減、A環境マネジメント、Bコンプライアンス、C環境会計・ボランティア等、 D事業活動における環境配慮(CSR)」の5事項14項目」から評価するとしている。 他にも、三重銀行は「企業の環境配慮状況を当行が定量的にスコアリングし、 評価ランクをご融資金利、私募債取扱手数料に反映させる」としている。
  • (融資条件)
     今回の回答結果から、融資条件は以下の三点―― @定量的データ、A既存の認証制度、B自治体や国の政策、と関連していると考えることができる。
     定量的データに関して、三重銀行は、「環境経営の実務に詳しい大手監査法人やISO審査機関等に定性評価を委託し、 より精度の高い評価を行う。」としており、定量・定性の両側面からの評価を行っている。 さらに、それを外部委託をすることでより高度な次元でのサポートを目指している。
     認証制度に関しては、たとえば京都銀行は「@ISO14001認証取得企業、 AKES(京都・環境マネジメントシステム・スタンダード)認証企業、 B「京都府産木材認証制度」取扱事業体認定企業」から評価している。
     また、自治体や信用保証協会の融資制度が、金融機関の融資姿勢に影響していると考えられる。 香川銀行では、香川県生活環境の保全に関する条例に基づき、県の事業認定により融資する制度を設けている。 金融機関に本来必要なリスク管理能力(「目利き」能力)を損なうことのないような、 よりよい協働のしかたを見出していくことが必要であると考える。
  • (実績と展望)
    実績に関しては規模や内容がそれぞれの金融機関で異なるため、一概に比較することはできないが、 滋賀銀行が6年間で934件と突出している。
    今回あまりみられなかった、再生可能エネルギー事業を供給する側への融資も、今後期待される分野である。
    様々なノウハウの蓄積や人材の育成を行ってほしい。また、そうした環境格付融資に関しては、 より詳細な評価方法と実績を、わかりやすい形で公表してほしい。

(3)その他の環境に関する取組みについて(自社の電力削減、省エネなど)

 今回のアンケートでは、自社に向けた取組みとしては@環境配慮型店舗に発電装置導入、 A全店においてリサイクル・節電B自然保護活動、の三点におおむね集約される。
 @については多くの信金・労金で取り組まれている。新設・建替店舗での太陽光発電設備を導入するなど、 実際に費用をかけて取り組んでいる点は素晴らしい。
 Aについてはほぼすべての金融機関で目標が設定されている。その中でも三菱UFJフィナンシャルグループの CSRレポートでは、詳細な環境負荷データが公表されている。
 他にユニークな事例として、廃棄文書のリサイクル工場を建設した京都中央信金がある。 廃棄物を自社で処理するとともに、余剰処理能力を使って地域内の廃棄文書の処理も請け負う。
 また、城南信金のように明確な意思表示に基づく取り組みで注目を集めている金融機関もある。 城南信金は、「原発に頼らない」という姿勢を明示した。その下で省エネを経営課題として認識し、 営業店に自家発電装置やLED照明を導入している。 また、理事長自ら講演会に参加し、一般市民に広く意思表明をしている。 CO2削減、省エネ対策という行動の上に明確な理念を打ち出した点は評価に値する。

(4)環境に関する取り組み全体について

  • 各金融機関が、競うように環境格付けやローンなど、様々な商品開発に取り組んでいる。 総じて多くの金融機関が、環境問題を経営課題、またビジネスチャンスと捉えていることがわかった。 しかし、融資の多くは既存取引先の省エネ対策であったり、 国や自治体の制度のもとで行われているものである。 持続可能な社会に向けて、必要なリスクをとる、あるいはリスクを低減する努力も必要ではないだろうか。 そのための目利き能力向上と新たなスキームの構築も視野に入れるべきである。


視点3.地域経済への取り組み

(1)地域に対する融資の比率(域内融資比率)

  • 域内融資比率を回答した16行中、域内融資比率が80%を超える金融機関が13行あり、 比較的高い比率である。これは回答した金融機関が地方銀行、信用金庫が大半を占めるので、 組織の役割として当然の結果とも言える。
  • 滋賀銀行が44.8%と著しく低くなっており、地方銀行としては珍しい。

(2)地域の経済発展に貢献する投融資の取組み

  • 京都銀行は、地域の成長産業に対する支援を強化する「地域活性化融資プログラム」 で実績を残している。(平成22年7月〜23年9月末までの累計実行額…367件/628億円) そして、「歴史都市・京都」の素晴らしさを再発見し、将来にわたってまもり育ててゆこうという 趣旨のキャンペーンを昭和57年より行っている。
  • 城南信用金庫は、平成23年11月に「地域発展支援室」を機能ごとに分割し、 地域の中小企業に対しての支援を強化していることが伺える。 大手の都市銀行では目の行き届かない地域の事業を積極的に支援する体制を機能別に拡充し、 地域に根ざした金融機関としての特色を強めている。
  • 淡路信用金庫の「巡回経営相談会」は、中小企業診断士との同行訪問による 経営相談や改善指導を行うもので、信用金庫のビジネスのあり方を考える上で示唆的である。 また、神戸、淡路ブランドの創出を目指し、「神戸セレクション」に毎年協賛する等、 地域の特性を活かした発信型の活動が活発である。

その他金融機関の地域経済への取り組みの例
西武信用金庫
  • 「地域産業応援資金 (商工会議所・商工会・大学等へ応援資金)」を贈呈し、中小企業をサポート
  • 中小企業の課題を解決する「専門家派遣事業」、 企業同士のマッチングを行う「ビジネスフェア」、 食料品を扱うお客さまの展示会である「東京発!物産・逸品見本市」等を実施
香川銀行
  • 企業経営の参考となる「企業経営セミナー」や「営業強化研修」、「管理職強化研修」などを実施
  • 老朽化した商店街の活性化として計画された高松丸亀町市街地開発事業の資金ニーズに対応
姫路銀行
  • 地元公立大学と共同で研究開発を行う企業を対象に、 新製品、新技術等に対する研究開発や新事業創出、 新分野進出を図る事業に対して助成金制度(一社あたり50万円上限)を創設
(A SEED JAPANが実施した金融機関への公開質問状回答結果等より作成)


視点4.社会的事業への取り組み

  • これまで取り組むことが難しいと思われていた「NPO向け融資」 という位置づけの具体的制度を持つ金融機関が、 メガバンクから労金まで全ての種類に見られ、また実績額の公開も進んでいる事は、預金者としては歓迎すべき変化である。
  • その中でも多くある融資の形としては各労金が行っている門戸を広く構える 「NPO事業サポートローン」(として門戸を広くする各労金および、 三菱UFJフィナンシャルグループや京都、西武信金のような「分野を設定しての融資」などがある。 また三重銀行の「つなぎ融資」や、みずほ、中国、東京スター銀行のような特定の団体へ融資が行われている印象がある。
  • 庄内、トマト銀行のような「制度はないがニーズに合わせて対応」などは、 今後の制度化・情報公開を期待したい。 また実績額は、融資基準などを検証しない事には単純に比較は難しいが、 金額・内容を具体的に公開している金融機関が存在し、これについても積極的な取組みを期待したい。

社会的事業への取り組みの例
近畿労働金庫 「NPO事業サポートローン」、障害者市民活動支援融資制度「ゆめのたね」、 「きょうと市民活動応援提携融資制度」等の取り組みを推進
三重銀行 「みえぎんNPOローン」を推進。地元NPOを応援するため、 NPO法人が国や自治体から委託金や助成金を受ける場合に、 資金交付までの「つなぎ資金」として1事業最高500万円まで融資。
みずほフィナンシャルグループ 社会的起業家支援で世界的な権威である「アショカ」と、 日本での活動支援および社会起業家サポートへの協力などに関する 「STRATEGIC SUPPORT AGREEMENT」を締結。アショカ・ジャパンの活動支援を通じて、 社会的な問題の解決にビジネスの手法を用いて取り組む社会起業家を支援。
(A SEED JAPANが実施した金融機関への公開質問状回答結果等より作成)


視点5.情報公開への取り組み

  • すべての金融機関が「ディスクロージャー誌」と「Web」を選択している。 次に「店頭(ポスター掲示など)」「パンフレット」などが多く回答されている。
  • ディスクロージャー誌はCSR活動だけでなく、金融機関のすべての活動にわたる詳細な情報が記入されており、 一般の預金者が参照するには専門的すぎる部分もある。 一方CSRレポートは、一般の預金者向けに金融機関の社会的な活動を紹介している冊子であるが、 地銀、信金、労金では発行されていないところが多く、回答結果としても少なくなっている。
  • 今後は、コスト面からも有利と思われるWebを通じての情報発信の重要性が高まっていくのではないだろうか。
  • また、金融機関によって情報媒体ごとの情報量の違いが見られるため、 金融機関の情報を調べたい場合は、Webサイトを確認することはもちろん、 店頭に行ってどのような冊子が発行されているか確認することも有効である。


CSRに対する課題について

  • 回答として多く挙がっていたものは、人員や予算の確保といった組織体制 (香川銀行、豊川信金、北陸労金、四国労金)や、CSR活動の認知度向上といった広報 (三重銀行、福岡銀行、香川銀行、北陸労金)についての課題である。
  • CSR活動に対する十分な体勢が整っていない金融機関も多く、 社内外を問わず、更なる意識の高まりとガバナンスが必要とされている。
  • みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、 近畿労働金庫からは、「金融機関の本業を通じてのCSR、社会貢献」 という回答が見られた。単なるPR活動として行われているCSR活動も多い中、 本業となる金融活動や営業活動の中にどれほど社会性という視点が含まれているかという部分は、 私たち預金者にとっても注視したい部分である。
  • その他、三井住友フィナンシャル・グループは環境技術の評価手法、金融機関の支援手法について、 中央労働金庫は障がい者への対応について回答しているなど、 より具体的な課題を挙げている金融機関も見られた。


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