(右)97年京都会議の時にA SEED JAPANがヨーロッパの活動家と協力して行ったアクション。エッソ石油では役員会議の話題になったという。

(左)2000年オランダで行われたCOP6でA SEED JAPANとSAGEのメンバーが協力して行った原発増設反対アクション。会議場では「原発が温暖化対策に有効である」ということが産業界から盛んに宣伝されていた。

 

 

それは10年前からはじまった

 地球温暖化問題が国際交渉の舞台に上がったのは80年代の終わり。1992年には、地球サミットに合わせ、気候変動枠組み条約が作られた。この条約の目的は「先進国は2000年までに温室効果ガスの排出量を安定化させる」というものだった。しかし、アメリカの猛反対により、この条約では具体的な数値目標は掲げられなかった。
 具体的な数値目標も罰則規定もなかったこの条約は達成できる見込みがなかった。しかし、科学的な研究が進み、地球温暖化の影響が明らかになるにつれ、国際政治が動かされていった。大きな転機は1997年の京都会議のとき。日本は6パーセント、アメリカは7パーセント、EUは8パーセントという削減目標が掲げられたのだ。京都議定書にはこの削減目標と同時に、アメリカの強い提案により森林の吸収源をカウントする仕組みや先進国同士で排出できる枠を取り引きする仕組みが導入された。
 その後この仕組みを巡って各国が対立していった。2000年の11月、オランダ・ハーグでひらかれた第6回締約国会議(COP6)では、厳しい削減基準を求めるEUと緩い削減基準を求める日米で対立し、交渉が決裂してしまった。そしてこの議論の決着をつけるため、2001年7月、ドイツのボンでCOP6再開会議が開かれた。

アメリカの離脱。迫られる選択

 「アメリカは京都議定書から離脱する」
 世界中の人々の願いはこの一言で消え去った。2001年3月、アメリカのブッシュ大統領が突然、京都議定書からの離脱を世界に向けて宣言したのだ。10年の交渉の成果として作られた京都議定書をひっ くり返すような発言に世界中から非難が殺到した。エクソンモービルなどの石油メジャーとブッシュ大統領との親密な関係も激しく非難されている。事実、世界最大の石油企業エクソンモービルはブッシュ大 統領の選挙資金の大献金先であった。
 日・欧は選択に迫られていた。ひとまずアメリカ抜きで京都議定書を発行するべきか? それとも、アメリカといっしょにもう一度ゼロから話し合うのか? EUはアメリカ抜きでも発効させようと意気込み だった。一方日本は「アメリカを説得する」というあいまいな態度を取りつづけていた。

森林の吸収源って何?

 日本を京都議定書に取り込むために、EUが用意したのは「吸収源の特例措置を日本だけに大幅に認める」という提案であった。「吸収源」とは「植林などで森林を増やした国は、その森林のもつ吸収分を削減目標達成のためにカウントできる」という仕組み。日本は6%の削減目標のうちの3.7%をこの吸収源で確保しようとしていた。しかし、森林がどれだけ吸収するかは科学的に不確定であり、エネルギー構造を転換するような大きな対策を遅らせることになる。なぜ日本がここまで吸収源に固執するのか?それにはなにか理由がありそうだ。
 製紙会社、電力会社、商社、さらに印刷会社や出版社まで海外の植林事業を始めている。製紙会社や商社が資源確保のために植林を行うのはまだ理解できる。しかしなぜ電力会社が大規模な商業植林 をおこなうのか?なぜ、自国での削減対策を真剣に行おうとしないのであろうか?

自主目標設定が失敗することは
10年前に明らかになっている

 日本最大の業界団体である経団連は原発増設、環境税の導入反対を温暖化対策のポジションとしている。規制による削減ではなく、あ くまで自主目標設定による自主削減を提案している。これはブッシュ大統領が提案していることと同じである。
 京都議定書はしばらくアメリカ抜きで進みそうだ。今後の日本の課題はどうやって6パーセント削減を達成するかである。炭素税のように地球温暖化を引き起こす原因に対してコストを課すような仕組み が不可欠であるが、経団連を中心とした産業界は真っ向から反対している。自主目標設定による削減対策が失敗することは10年前の気候変動枠組み条約でもはや明らかになった。しかし、国際的、国 内的な環境政策において多国籍企業の圧力が年ごとに強まっている。民主的な決定の元で公正なルールを作らなければならない。10年前の過ちを再び繰り返さないために。(文責:田辺有輝)

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気候変動枠組条約

 大気中の温室効果ガスの増大による気候変動を防止するため、1990年にスイスのジュネーブで開かれた第2回世界気候会議の勧告を受け、国連総会での議決を経て、国際交渉が開始。92年5月の国連総会で採択された。その後、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットで155カ国が署名して、94年3月に発効した。現在180カ国以上が参加している。温室効果ガスの濃度を安定化させるため、締約国が「共通だが責任のある差異」を果たすという考えに基づき、先進国に90年代末までにCO2排出量を90年レベルに安定化させるなどの約束を課した。しかし、各国の国内対策はほとんど進まず、日本でも5%増加している。また、同条約は2000年以降の目標について規定していないため締約国会議(COP)の場で議論が行われ、97年のCOP3で京都議定書が採択されたが、その後のCOP交渉ではEUと米・カナダ・日本などの対立が激化し、2001年6月現在、具体的な削減目標や手法などに関する合意はほとんど得られていない。

気候変動枠組条約 第1回締約国会議(COP1)
1995年3月〜4月 ベルリン・ドイツ

 地球温暖化を防止するためには、先進各国が2000年以降の温暖化対策を、数値目標を定めて強化・実施することが必要。97年の COP3で温室効果ガスの削減目標を盛り込んだ新しい議定書を採択することについて議論した。新議定書のCOP3での採択を「ベルリン・マンデート」として決議。それに向けたアドホックグループ(AG BM)をCOP3までに開く事、(結果/計8回開催)また、共同実施活動の試行を合意した。

気候変動枠組条約 第3回締約国会議(COP3)
1997年12月 京都府・日本

 気候変動枠組条約の最大の目的である「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果 ガスの濃度を安定させる」ため、COP1、COP2の採択・決議を受けて、先進各国が2008〜2012年の目標期間に達成すべき目標を定めた「京都議定書」を採択した。削減目標値は先進国全体で1990 年比約5%とされ、日本が6%、アメリカ7%、ヨーロッパ8%など。森林吸収源や排出量取引や共同実施、CDMなどの枠組みを盛り込んだ。

気候変動枠組条約 第6回締約国会議(COP6)
2000年11月 ハーグ・オランダ

 京都議定書の早期発効と遵守、実効性の確保のため、京都議定書の具体的な運用規則を策定するはずであった。森林吸収量につ いて日、米、カナダとEUが激しく対立し、事実上交渉決裂した。他の主な論点は、排出量取引・共同実施・CDMの範囲、原子力発電の扱い、削減目標不達成時の制裁の有無、途上国への資金援助な ど。その後2001年7月にCOP6再開会合が行われることになったが、米国ブッシュ政権による京都議定書離脱宣言など、京都議定書をめぐる国際動向は大きく揺れている。

京都議定書

 1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議(C OP3)で採択された。2008〜2012年の目標期間に先進各国が達成すべき温室効果ガスの削減目標を定めるもので、削減目標値は先進国全体で1990年比約5%とされ、日本が6%、アメリカ7%、ヨー ロッパ8%など、国ごとに異なる。温室効果ガスの排出量の多い国が少ない国から排出割当を買い取る排出量取引や、排出削減につながる事業を促進するクリーン開発メカニズム、共同実施などの枠 組みが提示された。

CDM クリーン開発メカニズム

 CleanDevelopmentMechanismの略で、京都議定書に盛り込まれた削減方法を達成するために導入された「京都メカニズム」の一 つ。先進国の資金や技術支援により、開発途上国で温室効果ガスの排出削減等につながる事業を行った場合、その事業で生じる削減量の全部または一部に相当する量を、当該先進国が排出枠として獲得 できる仕組み。その先進国の削減目標の達成に利用することができる手法。しかし、多くの環境NGOは国内の排出削減を回避する抜け穴であると強く批判している。

森林呼吸源(シンク)

 大気中のCO2を吸収・固定する働きに注目した森林の捉え方。京 都議定書で、国別に定められた温室効果ガス削減目標の達成評価に、90年以降の植林・再植林・森林減少による吸収量を「排出削減」とみなすこととなり注目された。日本は、植林だけでは最大で も6%削減のうち0.3%しか確保できないため、森林のカウントで膨大な吸収量を確保できるアメリカやカナダとともに2000年のCOP6で、吸収源を拡大解釈して自然林や90年以前の植林の成長量な ど温暖化対策とは直接関係ない吸収量も全て目標達成にカウントするよう主張した。その結果、EUなどと意見が合わず交渉決裂に及ぶ要因となった。

IPCC(気候変動政府間パネル)

 IntergovernmentalPanelonClimate Changeの略。世界各国政府が地球温暖化問題に関する議論を行う公式の場として、UNEPと世界気象機関(WMO)が共同で1988年に設置した。温暖化の影 響や対策、科学的な知見や、社会・経済的な影響評価などの視点から検討を進め、国際的な対策を進展させるための基礎となる技術的な知見、情報を集積、公表している。5年おきに評価報告書を取 りまとめている。

 


A SEEDJAPAN/リオマイナステンキャンペーン
asj@jca.apc.org