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エコ貯金フォーラム報告書 > 第1部 基調講演

金子勝基調講演 『グローバル経済と日本の金融問題総論』
水口剛基調講演 『オルタナティブ経済としての社会的責任投資(SRI)』
 

金子勝基調講演
グローバル経済と日本の金融問題総論

1.金融問題
 −不良債権問題は終わったか
 大手銀行に関して不良債権問題が終わったかのような新聞報道が続いています。全くのデタラメです。りそな銀行の2兆円の介入に見られるように、債務超過の疑いがあっても一切これを問わず大手銀行には公的資金を投入します、ということですから、大手銀行株価は維持します、何でもやっちゃいます、ということであって、決して不良債権問題が終わったということではないのです。
 実はりそな銀行の公的資金注入の後、不良債権問題は終わったとでもいうように株価が上昇しました。これは1999年3月末に、7.5兆円の公的資金注入の後ITバブルになったのと同じです。外国為替資金特別会計というのは米国債を大量に買っているものですが、簿価ですので含み益がたくさん含まれています。しばらくもつので、60兆円ブッこむわけです。もう恐ろしい時代です。イラク派兵で軍事的にも、そして経済的にもアメリカと一蓮托生です。何が起きているのかを誰も論じなくなった。猛烈に円売りドル買いで支えないといけない状態で、要は金融危機を起こさないために何でもやりますよ、ということです。

 −粉飾国家
 朝日監査法人は、繰り延べ税金資産 を取り除くとりそな銀行は債務超過でした、と証言しています。何故りそな銀行に公的資金が注入される必要があったかはあまり報道されていないのですが、朝日の公認会計士が自殺し収拾がつかなくなってりそな問題が表面化したのです。
 不良債権には引き当てを積みます。そのとき繰り延べ税金資産という架空の資産をどんどん水増ししている。還付される資産ではない。繰り延べ税金資産を回収するには5年後にそれだけの利益を上げないと回収できない。同時に新日本監査法人も監査して、5年から3年に繰り延べ期間を短縮したら、自己資本比率割れを起こした。公的資金を入れないといけない状況になった。そして、いきなり2兆円必要だということになった。3月末決算して5月半ばには朝日監査法人が降り、新日本監査法人が監査して自己資本比率割れが判明、りそな銀行が発足して2ヶ月たたないうちに2兆円っておかしい。監査や査定は何だったのか。やり直しもしない。
 BIS規制で自己資本比率規制というものがあります。(資本金・剰余金などの自己資本/リスク資産、貸付総資産。国際業務:8%以上 国内業務:4%)2兆円入れた結果、自己資本比率は12%になった。それがいつの間にか6.5%になった、じゃあ5.5%はどこへ行った?
 元々、査定がインチキだった。それを誰も問わない。この国のジャーナリズムは腐っている。日本の場合、銀行が潰れない限り、不正会計も経営者は責任を法律で問われない。逆に、潰れない限りゴマカシはバトンタッチされる。この国ではバカがトップに座ると永遠にバカがトップに座るわけです。潰れたときには不正会計が明らかになり、刑事罰を問われ、お縄になるからです。誤魔化せばその場を乗り切って行ける。この国は一事が万事粉飾国家です。不良債権があっても子会社を作り、子会社は関連会社に借金を付け回すという「飛ばし」「隠し」をする。連結決算から消えていくのも同じ。年金も同じ。
 りそな銀行並みに引当金を積むと、メガバンクは軒並み自己資本比率割れになる。ということは不良債権問題が終わっていないということです。

 −潰せる銀行と潰せない銀行
 貸し倒れ引当金 を積まないと、貸し渋り、貸しはがしは止まらないのです。貸し倒れ引当金を積まないままに査定をごまかし、相手企業が倒産したとします。自己資本比率の8%を保つために、貸し出し総資産を減らすために、貸しはがし・貸し渋り圧力がかかる。自己資本比率の逆数倍の貸し出し縮小圧力です。例えば、100億円なら、1000億円程度の圧力がかかる。貸し倒れ引当金を積むのが先決です。そうしないと、信用収縮は止まらない。公的資金はこの貸し倒れ引当金のために注入される。
 この引当金をおそらく、GDPの3割は積まないといけない。60兆円枠で一気に注入すべきだった。銀行経営者は正確にそれを要求しない。責任を問われるからだ。かりに長銀と同じように潰すとなると、優先株 が暴落し、紙切れとなって膨大な損失が出る(国民の税金である公的資金が回収できない)。これは責任問題になる。りそな銀行に公的資金を注入する音頭をとったのが、竹中大臣だ。そのときの実行者が金融再生委員長の柳沢伯夫だ。事務方の責任者が森昭次前金融庁長官。その下にいたのが高木祥吉金融庁長官だ。こいつらが犯人だ。こういう顛末があるから、りそな銀行は潰せないんです。潰してりそな銀行優先株が紙切れになり損失が出ると、責任が問われる。一方、足利銀行にはコミットしてないから心おきなく潰せる。ダメだわ、この国は。どうしようもない。
 私は1998年から銀行経営者の責任を問うて、一気に公的資金を強制注入せよ、と言ってきた。
市場に任せるというのは、責任を問わないということ。市場で自己責任を問うという論理が、実は無責任の論理になっているこの国の寂しさ。道路公団問題も同じ。民営化という名の下に、誰も責任を問われないまま道路目的税源1兆円が建設に投入されている。

2.地域経済
 −地域経済の現状
 田中角栄は天才です。田中政治の公共事業、工場誘致という地域に利益が及ぶ二つの経路は、利益政治とはいえオイルショック後には合理的な根拠をもっていたのです。東京の経済状態が悪いときには、輸出ドライブで回復し、公共事業で半年から1年の遅れで地方に波及します。東京の景気の波と地方の景気の波がずれて打ち消しあうため、安定化しながら国内市場を拡大できた。
 しかし、二つの経路は今やない。719兆円の財政赤字はGDPの1.4倍で公共事業は削っている。工場は中国へシフトしている。上場企業の2割が上場企業全体の6割の利益をあげている。中小企業や地方に利益が波及しない。波及経路がないから地域経済は回復しない。

 −循環経済と日本型インナーシティ問題
 よく環境問題やっている人は循環経済 が大事だと言う。俺は嫌いです。清貧の思想なんです。貧乏な人は言っていない。言っているのはみんなミドルクラス。地域は生きるか死ぬかなんです。循環経済を語るならば、生業を成り立たせていくために必要と言わなければいけない。環境も大事ですが、リアリズムが必要なんだ。食っていくために必要。生きていくためには、地域の中で自立的な循環を取り戻さないと生きていけない。そういうところまで来ている。
 高齢化と後継者不足で、集落崩壊が起きている。同じことは商店街にもある。地方中核都市はシャッター通りになっている。町が崩壊している。「日本型インナーシティ5問題」です。土地所有権が細分化され、地権者がその地にいないから再建が困難。不況だからではないんだ。沖縄は戦争で犠牲者が多く出て、反戦の人も多い。だが、そこで基地誘致運動をやっている。生活にゆとりのある人だけにしか通用しないロジックはだめ。そこまで来ている。
 では、どうやって地域経済を立て直すか。まさに、そこに皆さんが登場する場面があるのです。その時、大手銀行の下にある中小の金融機関の危険な状態は皆さんにとっても重要な関心事にならざるを得ない。地銀の特徴は不良債権の比率は高い。繰り延べ税金資産で自己資本比率を保っている。国債も大量保有している。もし、景気が回復し金利が上昇すると、国債価格は下落します。大量に保有していると危険な状態になる。
 そして、第二地銀や信金はさらに国債を大量に保有している。第二グループに注目して下さい。ガタガタになる危険性がある。金融は血液です。お金が回らないと中小企業や農業は壊死します。

 −みなさんのなすべきこと
 環境や福祉が大事だとあちこちで言っているのですが、食っていくために必要なのです。リアリズムが必要なのです。もう、そういうところまで来ている。所得や年金の二極分化が進んでいる。金持ちなんかは、環境NPOなんかをやって、環境が大事だと言う。何かおかしいと思う。生きていくことにカツカツになっている人たちをも取り込んでいくロジックが必要なのです。そういうロジックを構成してほしい。未来の世代にどういう地域を残すのか。そういうミッションを持って欲しい。いいことをしているのだという正義は怪しい。しかし、結果としてどういう日本を残すのか。町作りそのものから変えていく。分権化していく。コミュニティービジネスを支援していく。地産地消のようなものを絡める。中小企業を自ら回していく。
 新しい循環型の経済は、生きていくための農業や中小企業や街づくりや、そういう大きなビジョンと結びつくことによって大きな力となる。今は、なかなか広がりがもてないと壁にぶち当たっている方もいらっしゃると思います。しかし、その壁は大きなオルタナティブの中に位置づけられることによって、他の動きと協働することによって、はじめて意味が大きく飛躍するわけです。今は点のような動きかもしれないが、夢かもしれないが、時間がかかるかもしれないが、生きるために皆さんが奮闘していただければ、多くの人が元気を取り戻せるきっかけになるのではないか。社会が一歩一歩変わっていくのにつながるのではないか。そう期待してやまないのです。(記録:櫻井和幸)

参考文献
『財政崩壊を食い止める』岩波書店、1999
『経済大転換』ちくま新書、2004

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水口剛基調講演
オルタナティブ経済としての社会的責任投資(SRI)

始めに
金子先生の話で、どんなことがキーワードだったのかなと考えますと、一番強く言われたことは、「リアリズムを持て」ということでした。ボランティア活動も大事だけれども、今や、生きていくこと自体が大変だという地域経済の現実がある。また、日本の現状は問題山積だということが、メッセージとして強く伝わりました。金融が問題なんだ。国も問題だ。そしてインナーシティ問題がある。インナーシティ問題というのは、欧米も同じように経験している。アメリカでは1960年代から70年代に強烈にその問題があり、その時に市民の自発的な取り組みとして、SRI(社会的責任投資、以下全てSRIと表記)が広まって、それでインナーシティ問題に対応したんですね。
 日本でもここ数年、株主利益最優先の市場経済の弊害が見えてきて、そうした中でCSR(企業の社会的責任、以下全てCSRと表記)やSRIが一般にも認知されるようになってきました。かえって不幸な時代なのかもしれません。金子先生のお話はこのような形で、これからの議論につながるのではないかと思います。

1:SRIの広がり
 SRIというのは、1970年代にアメリカで本格化し、1980年代から1990年代にヨーロッパに伝わり、いま日本でも普及しようとしています。これは、政府に対する信頼の低いところから出発している、という感じがします。アメリカは、市民の中に「自分でなんとかしなきゃいけない」という感覚が一番強かったから、最初にSRIがでてきたのだと思います。日本はなんだかんだと言っても、今まで政府や世の中を信頼してきたところがあって、NPOやSRIなどは反体制的なものと見られがちでした。
1970年代からSRIが本格化したアメリカでも、当初は反企業的・反体制的な動きとして認識されていた為にそれほど広がりませんでした。しかしそれが90年代に急速に伸びます。今ではアメリカで運用されている資金の12%がSRIと言われています。アメリカは90年代に株価が急激に伸び、401(k)(注@)などの年金改革もあって資金が株式市場に流れ込んでいったので、その追い風を受けたという面もあります。しかし重要なことは、アメリカのSRIグループがただ資金がやってくるのを待っていたわけではなかったことです。ソーシャル・インベストメント・フォーラム(SIF)という一種の業界団体を作って、大変積極的に市場拡大の努力をしています。たとえば5〜6年前には、タバコ・キャンペーンと称して、たばこの健康問題を盛んに取り上げました。そのことで実際にたばこ企業の株価は下落して、たばこ会社に投資していた普通の投資信託は値を下げましたが、最初からたばこ企業を排除していたSRIの投資信託は相対的に値をあげたわけです。このようにアメリカのSRIのグループは、かつては南アフリカのアパルトヘイト問題やベトナム戦争といった社会的な問題を積極的に取り上げ、それらの問題が一段落した後も、さまざまな社会問題を取り上げて、「これが問題なんだ!」というキャンペーンをして社会問題がうまく目に見えるような形にしてアピールするという運動をしてきました。
 また、アメリカの株式投資はSEC(証券取引委員会)(注A)が作るさまざまな規制によって管理されています。SRIもそれらの規制に影響されるんですね。だからSRIのグループは、SECが規制を改正する時には、非常に強力なロビー活動をしています。これも日本で学ばなくてはならない点だと思いますが、このように業界のさまざまな努力によってSRIは伸びてきたのです。
 1980年代の初めにはSRIという考え方はイギリスに伝わり、1989年にはスイスでも最初のエコエフィシェンシーファンドが登場します。しかし、当初はイギリスやスイスでもそれほど広がらなかった。ところが2000年前後から、SRIはヨーロッパで急速に注目を集めるようになりました。それはEC統合によって西欧と東欧の垣根がなくなり、失業問題をはじめとした社会問題が大きな課題になっているからです。失業問題は本来政府が対応しなければならない問題だと思いますが、これを、「労働者の雇用維持は企業の社会的責任である」というロジックで、SRIに委ねようとする動きがあるようです。そこでEUは、今後、CSRやSRIを推進していくとする報告書を出しました。このようなことでヨーロッパではSRIに追い風が吹いています。
そしてその流れは日本にも影響しています。2003年3月に経済同友会が第15回企業白書として「市場の進化と社会的責任経営」と題した報告書を公表しました。彼らは、ヨーロッパのSRIやCSRの状況を視察して、日本も遅れてはならないという危機感をもったわけです。

2:市場原理主義の対抗軸として
 市場メカニズムはそれはそれで重要だと思いますが、市場メカニズムさえあれば、競争原理が働いて効率性を高めることができる、そうやって株主利益を最大化させることだけが目的なのだと、あたかも信仰のように市場メカニズムだけを信じて、それ以外のものを排除しようとする考え方は、市場原理主義だと思います。SRIは、そのような市場原理主義に対するアンチテーゼ、あるいは対抗軸として生まれてきたという面があります。市場原理主義は、今、グローバリズムと結びついていて、その実態は、実はアメリカ型経済システムです。アメリカ型経済システムに一番はじめに直面したのはアメリカです。だからSRIがアメリカで始まったんです。このアメリカ型経済システムが少しずつ欧州にも広がって、その対応策としてCSRとかSRIがどんどん盛んになってきた。またアメリカ型経済システムは中国や韓国にも、もっと強い形で普及して、市場原理主義として根付いてきた。それに日本の地域経済はやられているわけですね。グローバル化した中国や韓国の企業の競争力に日本の経済は攻められていて、そのような中で、元々市場メカニズムの中にいるはずの日本の経済界でさえ、ここには行きすぎがあると思い始めている。経済同友会でさえ、報告書の中で「株主中心主義には行きすぎがある」と書いているのです。
 その一方で、未来バンクや北海道NPOバンクなどのような地域型の金融の仕組みを作ろうという試みが、多く登場してきています。このような地域金融をなんとかしようという流れがあって、また日本の中心となる経済界もSRI やCSRに注目している。今、この2つの流れが大きな波となってやってきつつあると思います。この波をただのブームに終わらせるのではなくて、形にして残していくことが大事です。そのために今日のエコ貯金フォーラムもあるんだと思います。大変良い試みだと思います。エコ貯金という名前もいいですよね。SRIだとか社会的責任投資という名前じゃ、なんだかよく分からない。「エコ貯金」というのは良いネーミングだなぁと大変関心しております。

3:SRIとは
 SRIの基本的な考え方というのは「資金を投資する時に、短期的で直接的な利益につながるかどうかだけで判断するのではなくて、そのお金が使われる先を考えて運用しましょう」というものです。この考え方には、今、2つの点で重要な意味があると思います。

 −地域のお金を地域に還元
 まず金融と地域経済の問題を考えると、結局「お金の流れがうまくいっていない」ということがあります。「地域にお金がうまく流れていかない」ということです。地域の人が地域でした預貯金が地域に還っていかないで、銀行などがそのお金で国債を買い、全部中央政府に流れていって、中央の省庁がいろいろなところに配分するという構造になっています。このように地方のお金が中央に流れていく、また民間のお金がどんどん官に流れていくという状況があって、この流れを変えなければいけません。

 −社会と環境に配慮した事業へ
 もう一つ考えなければならないのが、「社会や環境に配慮した企業」に資金を流していくことです。たとえば、イラクやアフガンなどの戦争に乗じて利権に群がっている軍事産業や石油メジャーなどの企業は、世界の経済的格差を拡大させながら、一番儲けています。世の中には良心的でまともな企業も多数あると思いますが、やはりそうしたよくない企業への資金の流れは断ち切って行かなければいけない。そういった意味からも、「社会や環境に配慮した事業にお金が流れる仕組みを作る」ということが必要だと思います。お金は放っておくと、一番儲かるところに流れていくという性質を持っていると思いますので、儲かれば良いといった目先の利益にとらわれてお金が流れていくのではなく、お金の使われ方に配慮した資金の流れが必要なのです。

お金の持つ社会性を考えて社会性に配慮した資金運用をすることを広くSRIと呼びます。それではどのようにSRIは行われているのでしょうか。

 -預金者・投資者としての責任の自覚
 1つ目は、預金者や投資者が資金の運用先を選ぶ時に、自分の価値観や倫理観に合わないところは排除する、逆に社会や環境によい企業を積極的に選んで投資するということです。これは、資金の出し手としての責任を自覚するということでもあります。たとえばアメリカのキリスト教会が運営している病院の資産運用をする時に、たばこ会社は投資先から除外されています。病院ではガン患者を治療するわけですが、たばこ会社に投資してガン患者を増やして得た利益で、ガン患者を治す病院を運営するというのは矛盾しているのではないか、というわけです。
私たちが銀行に預けたお金も、回り回って、たとえばガンの新薬になって多くの人の命を救うかもしれませんが、それが戦車やミサイルの部品になってイラクに行っているかもしれません。そうしたことを考え、資金の使われ方をチェックして自分の倫理観にあったところだけにお金を出しましょうというのが、社会的スクリーニング(選別)という考え方です。

 -株主としての権利と責任
 2つ目は、単に良い会社に投資をして悪い会社に投資をしないというだけではなくて、投資した会社に対して株主として働きかけようという動きで、1970年代に始まりました。企業に資金を出す方法は大きく分けると2種類あります。企業の株式を買って自己資本としてお金を出す方法と、融資(貸付金)という形でお金を出す方法です。融資という形は社債を買ったり銀行経由で貸し付けたりといろいろな方法がありますが、これはお金を貸し付けているだけですから、やがて返済されるだけです。しかし株式を購入したら会社の株主になりますから、その株主としての権利や責任が生じます。そこで、企業の関わっている社会的な問題について株主総会で意見を言ったり、株主提案をする。このような行動が生まれてきました。

 -持続可能な地域社会の構築
 3つ目は、地域のマイノリティや社会的弱者に対する低利融資で、地域の教会などが中心になってきたものです。さきほどインナーシティ問題が取り上げられました。都市のスラム街に住む人たちはお金がなく、住む家もない。住む家がないから担保もなく、お金を貸してもらえない。だからビジネスも始められない。そういう八方ふさがりの状態だから犯罪が起きやすいのです。こういう時に、たとえば住宅を買う資金を融資したり、ビジネスを始める資金を融資したりする。そうやって一番貧しくて一番お金を返えせそうのない人達に積極的に融資することによって、彼らの生活を立て直す。そうすると犯罪は減って、町も住みよくなり、社会がよくなる。つまり大企業を糾弾するというよりも、地域の一番困っている人々に、彼らが必要としているお金を貸してゆくという行動です。このようなコミュニティを再生する為の投資活動をアメリカではコミュニティ投資と言います。よく、貧しい人にお金を貸したらお金が返ってこないんじゃないかと考える人がいますが、貸し倒れ率は大手銀行よりも低いケースが多いそうです。なぜかというと、これはコミュニティの中の顔の見える関係ですので、踏み倒して逃げてしまうということはあまりない。さらに、お金を貸したら貸しっぱなしではなくて、そのあとさまざまなアドバイスやサポートをしていきます。このように密接な関係のもとにコミュニティ投資は機能しているということもあって、比較的うまく回っているようです。

4:SRIの実践
 -預貯金型:ろうきん・地域金融機関
 それでは日本ではどのような可能性があるのでしょうか。今回のエコ貯金フォーラムでは、これを3つに分けて考えています。まず、実践を大きく2つ分けると、出資したお金つまり元本が保証されるものと、保証されないものになります。しかし元本が保証されないリスクの伴う株式投資はなかなか個人ではチャレンジしにくいと思います。これに対して、日本では預貯金というのが身近ですし、日本で広がりを持つSRIとして一番可能性が高いのは、この預貯金型のエコ貯金の仕組みかもしれません。労金さんや地方金融機関が集めたお金でたとえば地域のNPOに融資したり、地域を活性化させるものに優先的に融資をするといった、預貯金を利用しながら、地域にお金が流れるようにするという仕組みは非常に可能性がありますし、必要とされています。
ただ問題があるとするならば、市民バンクも労金もそうですが、集めた資金の全てがNPOや地域に融資されているわけではないので、他の部分がどう運用されているかという点です。その他の資金も何らかの倫理的な基準をもって運用しているのかどうか。また、預けたお金の一部だけが地域やNPOに融資されるということをどう預金者に説明しているのかという点も課題です。

 -出資型:未来バンク
 未来バンクは、組合形式にして、みんながあたかも預金をしているようにお金を出し合い(出資し)ます。その資金を地域やNPOに融資するという形になっています。「出資」ですから、元本は保証されません。けれども実際には、貸し倒れになって、赤字になっているということではありません。
これは預貯金型と違い、預けたお金が全て地域やNPOに融資されるという理念直結型の仕組みです。このような仕組みが各地域にたくさん生まれ始めています。期待したい動きです。ただ、もし問題があるとすれば、組織力という点でしょうか。たとえば未来バンクは、専従や有給のスタッフはいなくて、全てボランティアで運営されています。今後この種の運動を広めていくにあたって、資金運用のノウハウだとか、融資先の調査といったことにどれぐらい専門性が得られるのかという問題があります。専従を置かなくても専門性を保てる仕組み作り、たとえば専門性を補うネットワーク作りといったことが必要だと思います。

-投資型:エコファンド・社会貢献ファンド/ −株主運動
 上で述べたような地域金融中心のSRIは、世の中のすべての企業活動に関わっているわけではありません。地域の企業やNPOを応援すると同時に、地域の問題は地域だけを変えようとしても解決しませんので、社会全体の仕組みを変える必要があります。そのためには大企業に回っている大きなお金についてもコントロールしたり改善したりする仕組みが必要です。それが、今登場しているエコファンドや社会貢献ファンドの役割です。
これらのファンドが良い企業をちゃんと応援することが大事です。たとえば地域に貢献するような企業を選んで、地域と大企業とのネットワークを作っていくということが考えられます。
課題は、どういう基準で企業を選別するのかという、スクリーニングの基準と、株主行動への発展の可能性です。最も重要なのは、価値観を明確に打ち出していくことだと思います。SRIやエコ貯金の本質というのは「こういう社会がいいんだ」「本来こういう社会であるべきだ」という強烈な価値観であると思うので、その価値観がはっきりしないと、この種のものはうまくいかないと思います。
日本で実践されている株主運動としては、もう10年以上前から東京電力や関西電力に対して、脱原発運動の会が株主提案を続けています。最近は株主オンブズマンの会も脚光を浴びていて活躍されていますので、今回のエコ貯金フォーラムでは取り上げられませんでしたが、次回は是非株主行動の分科会もつくって、仲間を増やしていくとよいと思います。

 5: これからのSRI
 SRIやエコ貯金は将来どれぐらいまで広がりうるでしょうか。これはアクティブなSRIとミニマムなSRIの2つに分けて考える必要があります。
アクティブなSRIというのは、これからみなさんが取り組もうという、たとえばエコファンドを購入するとか、未来バンクに出資するという積極的なSRIです。このようなSRIは、アメリカでも現在、世の中で運用されている資金全体の12%くらいと言われていますから、日本でも多分10%ぐらいが限界ではないかと思います。そこまで広がれば社会的にかなりのインパクトになりますから、そこを目指せば良いと思います。
これに対してミニマムなSRIというのは、全ての金融機関が、最低限、一定の社会的な基準をもって資金を運用していくということです。あらゆる金融機関は公共的な存在ですから、儲かれば何をしてもいいというのではなく、一定の基準があるべきです。それは、金融機関という特権を持った組織の社会的責任であると思います。つまり将来的にはSRIという考え方は特殊なものではなく、一般の企業にとってCSRがごく普通のものとして語られるようになったように、レベルはいろいろあると思いますが、SRIも全ての銀行、全ての金融機関がある程度取り入れるようになったら良いと思います。またそのように求めていく運動というのもあってよいと思います。
SRIが社会を変える運動になる為には、なにより、企業をきちんと見極めて行かなければいけません。でもこれは本当に難しいですよね。「一人シンクタンク」状態の金子先生であればあらゆる知識があるので、できると思いますが、普通の人は中々そうはいきません。でも一人一人はオールマイティでなくても、みんなが少しずつ何かの分野の専門家であれば、それらをお互いに連係して情報を交換することで、高度な分析ができるようになると思います。ちょうど、無数の脳細胞が相互作用することで高度な思考が可能になるようにです。多分金子先生のような人が一人で同じことを言うよりも、多くの人間が言った方が社会に大きなインパクトを持つだろうし、そのようにならなくちゃいけないと思います。必ずしもNPOでなくとも良いのですが、あらゆる専門家のノウハウや情報がネットワークされて世の中の問題を見極めていくというような仕組みができたらいいと思っています。そのきっかけにもこのエコ貯金フォーラムはなるのかと思います。(記録:吉濱晶子)

【注釈】
@401(k):アメリカにおける確定拠出型の企業年金の一種。企業の従業員は、自分の退職後の年金の為に積立額を決め、毎月のサラリーから天引きで年金積立を行う。積立金は、自分の責任で選択して運用するので将来受取れる年金額は変動する。

ASEC (Securities and Exchange Commission) :米証券取引委員会。
投資家保護と証券市場の健全性維持を任務とする連邦ベースの証券取引監督機関。

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