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【「ろうきん」広報室・山口郁子氏インタビュー】
 

 エコ貯金プロジェクトでは、「環境や社会に配慮した貯金」のあり方を、預金型、出資型、投資型の三種に大別して研究・推進をしています。

 若い私たちにとって「元本が保証される(預けたお金が減らないこと:株やSRIなどは減る可能性もある)」預金型エコ貯金への関心は特に高まっています。金利や利便性、そして知名度やイメージだけで預貯金先を決めるのではなく、「預けたお金の行方」も考えて預けようとするとき、NPO・NGOへ積極的に融資していることは大きな判断材料になるでしょう。

 今回は、「NPO・NGOに積極的に融資することによって、市民活動の支援・促進につなげる」という視点から精力的に活動されている、中央ろうきん(以下:「ろうきん」)営業推進部広報室、山口郁子さんから、エコ貯金とNPOローンについて話していただきました。(聞き手:鈴木亮)

 
●NPO・NGOへの融資制度  「ろうきん」の使命と新たな挑戦「NPOローン」
   
鈴木: 「ろうきん」の金融機関としてのコンセプトと、最近の取り組みについてお話ください。
   
山口:

「ろうきん」は五〇年前に労働者の組合から生まれました。
戦後、国が掲げた「経済発展(=企業成長優先)」の影で、特に社会的地位が低い労働者は、普通の金融機関からはお金が借りられず、高利貸しにすがるしかない社会的状況がありました。そんな人々が「自分たちにも使える金融機関を」と考えて、「ろうきん」が生まれました。

 銀行などの普通の金融機関と違って「ろうきん」は営利目的(利益を株主などに還元すること)ではなく、雇用される個人全ての福利厚生を向上することが目的でした。コンセプトは「相互扶助(助け合い)・安心できる社会」ですね。(筆者注:「ろうきん」は利益を株主などに還元しない非営利(NPO)金融と呼ばれる。)

 今はさすがに労働者がお金を借りられないという時代ではなくなりましたが、世の中が不況で、雇用が守られなくなっていますし、高齢化も進んでいます。専業主婦では生活ができず、働くので子供がもてない、という悪循環もあります。行政は市民の福祉のニーズに追いついていません。「公」(行政)の果たす役割が不安定だから不安が蔓延しています。一方で、若い人たちにとっては、ライフスタイルや価値観を大事にする「個」の時代に変わってきています。そういう時代にこそ「個」が相互扶助する「ろうきん」の役割も大きいと思います。

 NPO・NGOって、個人で解決できない社会問題に取組む存在ですよね。NPO・NGOのように「公」(行政)の限界に、「個」としての市民が自発的に取組むこと、これも「相互扶助・安心できる社会」だと思います。「ろうきん」とNPO・NGOは使命がとても近いことに気が付きました。
 そこで、「ろうきん」では「NPOローン」として市民活動の立ち上げを支援する助成プログラムと、活動して三年以上経った団体への融資制度を充実させています。

   
●NPO・NGOへの寄付制度  預金者への呼びかけ
   
鈴木: 「ろうきん」のNPO支援ローンは山口さんが生みの親みたいなものですね。「相互扶助・安心できる社会」という理念は、 私たちA SEED JAPANが目指す社会像でもあります。それでは、「ろうきん」にお金を預けている預金者に対しては、どのような取り組みをされていますでしょうか?
   
山口:

NPO支援ローンといった金融機関の取り組みが、自分たちの「暮らしのため」であるという認識(「個」人の生活のためにNPO・NGOが「公」の機能を代替しているという認識)を向上させるために、「NPOサポーターズ預金制度」というものをスタートさせました。これは預金の利息の何割かをNPOに寄付する仕組みです。まだまだ額は少ないのですが。

 また、「サービス・ポイント制」という従来あった制度で、カードを利用した額に応じて景品がもらえる制度も、あまったポイントや全額を社会貢献に寄付できるようにして、昨年は一三○万円ほどの実績がありました。NPO・NGOへの新しい寄付の開拓になっていると思います。「NPOと共に歩む」という姿勢をもっともっと預金者や組合員に発信していきます。

   
●エコ貯金の今後の展望  広がるグッドマネー、山口さんの思い
   
鈴木: 日本全体として、山口さんが考えるような金融機関は増えているのでしょうか?また、山口さん個人としては、どのような思いを抱いていらっしゃるのでしょうか?
   
山口:

 着実に増えていると思います。市民金融とか非営利金融、NPOローンといった事例としては、多磨中央信用金庫や国民生活金庫があります。また北海道の市民バンクや神奈川の女性バンクなど、ノンバンクも増えています。NPO・NGOへのヒアリング(意見を聞くこと)や育成プログラムなども必要でしょう。(筆者注:ノンバンクとは、法律で定められた銀行などの金融機関以外のこと。いわゆるサラ金などをさすことが多いが、市民の作る金融機関の場合、銀行としての認可を得ることは大変なので、ノンバンクとして登録することが多い。)

 私は大した理由もなく、「ろうきん」に就職しました。しかしその中で、五十年語られてきた「労働者のための福祉金融機関」が、今の時代に果たすべき役割は何だろう、と考えました。もっと先を見た、五十年先を考えるような新しい働き方を探すうちに、NPO・NGOについて調べるようになりました。

 もどかしかったときもありますが、今では確信しています。「新しい社会合意」が必要なのだと。行政主導の社会(「公」の社会)が上手くいかない中で、新たな「公」の担い手として期待されているのは、様々な市民のセクターです。そういう市民セクターを資金面から支える私たちのような「市民サイドの金融機関」なのです。

   
鈴木: 今後の展望や目標について語ってください
   
山口: NPO・NGO業界は混沌としてきていて、今後様々な波乱もあると思います。乱立していて、ひとくくりにはできませんし、「NPOローン」もまだまだ課題が山積しています。暗中模索中ですが、さまざまなメニューを充実していくことが目標です。何よりも、自分のような存在を、増やしていきたい。今は「ろうきん」の首都圏の一四八店舗をたった二人でカバーしている状態ですから(笑)。
   
 
「ろうきん」基本データ

労働金庫の略称。以前は各県ごとに県別の「ろうきん」があったが、再編が進み、現在は地方ごとに統合されている(例:関東の8件の労働金庫が集まって「中央ろうきん」に合併)。その上部組織として「ろうきん」(全国労働金庫協会)がある。

中央ろうきんの預貯金残高は約4兆円、貸出残高は約2.5兆円。その貸出金のうち約8割が組合員の「一般住宅資金」に、1.5割が「生活資金」となっている。首都圏にも148店舗ある(2003年3月末現在)。

 

 
 
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