A SEED JAPANより、6月19日付で電力会社の主要株主およびPRI(責任投資原則)
署名機関に対してお送りした公開質問状に対して、
回答期限(7月15日)までに19団体(金融機関15社、自治体4団体)からご回答いただきました。
ご回答が難しい面もある今回の質問状に対して、これだけの多くのご回答をお寄せいただいたことに、まず感謝申し上げたいと思います。
回答団体の一覧は以下をご覧ください。
<回答団体および回答結果一覧>
各設問につきまして、その結果の概要等を以下に整理いたしましたので、ご覧いただければ幸いです。
質問1:電力会社の株式の保有状況について
金融機関15社のうち、13社からは「個別株式の保有状況については、
開示を差し控えさせていただきます」
「運用報告書や月次レポート等で通常行っている開示以上の個別・具体的な開示は行わない方針」等のご回答をいただきました。
四季報等で当該電力会社の株式を保有されていることが明らかな金融機関もありましたが、
こうした質問状に対して個別にご回答されるのは難しい、という状況があると推察します。
一方、三井住友アセットマネジメント、第一生命からは明確なご回答を頂きました。
三井住友アセットマネジメントは、パッシブファンドの運用をしているため、
今回対象とした電力会社11社の株式をすべて保有していると回答されています。
第一生命は、四季報ベースの回答としながら、東京電力と中部電力の株式を保有していると回答されています。
この2企業からは、本設問に対して、情報公開の一環として前向きにご回答いただいたと考えております。
また、4つの自治体(大阪市、沖縄県、高知県、山口県振興財団)につきましては、いずれも保有企業を明確にご回答頂いております。
(山口県振興財団は山口県が所管する財団法人であることから、自治体に含めて集計させていただいております)
質問2:電力会社に対する投資方針について
金融機関15社のうち、3社(三井住友アセットマネジメント、太陽生命、日興アセットマネジメント)は
「A.投資方針を見直している(あるいは見直す予定である)」と回答されました。
その具体的内容として、太陽生命は「原発問題や個別企業の業績等の影響をこれまで以上に注視するなど
リスク管理を厳格化するとともにPRIの趣旨にある環境・社会・企業統治の観点からの確認も徹底」、
「投融資にあたっては、上記の分析を踏まえ、慎重な対応を実施」
と記述されています。国連のPRI(責任投資原則)署名機関として、
原発問題も踏まえてリスク管理を強化していくというコミットメントは、社会から高く評価されるものと思われます。
また、日興アセットマネジメントは「個別銘柄の投資方針については回答を控えさせていただきますが、
電力会社については、安全対策・防災対策への取り組みが重要だと思われるため、注意深く確認しています。」
と記述され、電力会社のリスク対応策について注視することを明言されています。
金融機関がこうした投資方針を取ることにより、原子力発電のリスクが金融マーケットに反映されることにつながり、
また電力会社のガバナンス強化にもつながると考えられます。
なお、他の金融機関12社からは、「取引先の与信方針については、
開示を差し控えさせていただきます」等の理由で、投資方針を見直しているか否かについては明確なご回答を頂けませんでした。
ただし、第一生命は「電力会社については、震災以降、経営環境が大きく変化していると認識しており、
今後の投資については、電力事業を取り巻く状況について情報収集と調査分析を継続しつつ、
適切に判断していきたいと考えております。」と欄外に記載してくださっており、今後の検討の進展が期待されます。
自治体4団体からは、いずれも「B.投資方針を見直しておらず、今後見直す予定もない」とのご回答を頂きました。
その理由として、たとえば沖縄県は「沖縄電力株式会社は県内産業活動の中核企業であり、
経営の安定と中立性の維持は経済振興上極めて重要であることから、引き続き株を保有していく予定である。」
と回答されています。自治体は過去に直営で行っていた電気事業が国策会社に統合・合併された際、施設等を現物出資した見返りに株式を取得した、
という歴史的経緯もあることから、今後も保有される団体が多いものと考えられます。
質問3:今年度の株主総会における議決権行使について
金融機関15社については、議決権行使に関しては個別には回答できない、との趣旨のご回答が並びました。
こうした個別の回答は困難な状況にあると推察されますが、電力会社のような公的な機能を有する企業の大株主には、
議決権行使についても一定の社会的責任があると考えられます。今後、より踏み込んだ情報公開がなされることを期待しています。
一方、自治体のうち、本設問の対象となったのは大阪市と山口県(山口県振興財団)でしたが、
大阪市は脱原発関係の株主提案については反対したことを明記してくださいました。
その中で、大阪市長の株主総会での意見表明を参考資料としてお寄せいただき、
市としての姿勢を明確にしてくださっていることを評価したいと考えています。
質問4:原子力発電のリスクや代替エネルギーに関する見解について
金融機関15社については、2社(住友信託銀行、中央三井アセット信託銀行)が
「A.原子力発電のリスクや再生可能エネルギー事業に関する統一的な見解をもっている」と回答されました。
(回答でA欄にチェックはついていませんが、Aの具体的な内容の中に記述があるため、選択肢としてはAを選択されたと判断しました)
2社ともに「「三井住友トラスト・グループの社会的責任に関する基本方針(サステナビリティ方針)」において、
持続可能な社会の構築に積極的な役割を果たすことを明示し、
風力発電や太陽光発電等の代替エネルギーの利用を促進する金融商品の提供等に積極的に取り組んでいます。」
という趣旨の回答をされています。明確な回答を頂いたことを評価していますが、
原子力発電のリスクについても踏み込んだ回答を頂ければなお望ましいと考えています。
また金融機関3社(三井住友アセットマネジメント、太陽生命、大和証券投資信託委託)からは
「B.原子力発電のリスクや再生可能エネルギー事業に関する統一的な見解はない」との回答を頂きました。
ただし、太陽生命はBと回答しながらも「投融資にあたっては、
再生可能エネルギー事業についても、財務分析だけでなく、
将来性(ポテンシャル)も含め個別に評価を実施」等との内容を記述されています。
また、大和証券投資信託委託も「今後検討予定」と記述されており、今後の検討状況の公開が期待されます。
他金融機関10社については、無回答や回答を控えるとのコメントを頂いていますが、
その中でも第一生命が「原子力発電及び代替エネルギーが将来的なエネルギー政策の中でどのように位置づけられるべきなのかについて、
しっかりと情報収集と検討を継続していきたいと考えております。」と欄外に記述されており、
電力会社の大株主として、今後どのような検討を実施されるか、動向が注目されます。
自治体4団体についてはA、Bそれぞれが2団体ずつと回答がわかれました。
Aを回答したのは沖縄県と高知県であり、沖縄県は「沖縄電力株式会社は全国の電力会社で唯一、
原子力発電を行っていない地域であり、今後も導入計画の予定はないものと理解している。」
と記述されており、今後の再生可能エネルギーの導入についても前向きな姿勢を示されています。
高知県の回答では、原子力発電所を直ちに停止することは現実的ではないとしながらも、
「供給電力における原子力への依存度を徐々に下げていく必要がある」と記述され、
再生可能エネルギーの導入を積極的に推進していくとして、原子力から自然エネルギーへの転換という方向性を示されており、
高く評価できるものと考えております。
このように、個別のご回答がいただけなかった設問も多かったのですが、
今回のような難しいテーマについて、48団体中19団体からご回答いただけたことは、
今後の金融機関・自治体と市民との対話の発展に向けて、大きな一歩であると考えております。
7月15日の回答期限を一区切りとして今回結果を公開いたしましたが、まだ回答されていない団体からも引き続きご回答をお待ちしております。
今後も、本テーマに限らず、広く市民と金融機関の対話の充実に向け、
直接的なダイアローグの場を設定するなど、活動を続けていく予定です。
今後も金融機関、自治体等の皆様のご協力を頂ければ幸いです。