〜2001年6月24日に主催したシンポジウム「One Step Beyond」での北沢洋子氏の講演より抜粋〜
北沢洋子氏プロフィール |
「持続可能な開発(Sustainable Development)」とはリオサミットで国連が公に定めた言葉。特に日本では「循環型社会」という言葉が全面的にきていて「廃棄物やエネルギーの問題」と考えられがちだが、お金の問題も含まれるのだ。
例えばフィリピンの場合、貧しい人でも一日1ペソくらいは貯めることが出来る。1ヶ月で30ペソ。様々な障害があったとしても、一年間で200ペソ、それを大勢で助け合いながら信頼に基づいてお金をプールしてゆく。その集まったお金、一年で2000ペソは貯蓄となる。その2000ペソを担保に出せばNGOが20000ペソ貸すという形でマイクロビジネスが可能になる。例えばバナナの場合、生のバナナを売るならば山の中のような僻地では、悪徳商人に買い叩かれるが、バナナチップにすれば、何らかの付加価値や交渉力がつく。それだけではなく、ミクロビジネスは「持続可能な開発」の中の大きな枠組みになり、同時に金融も生まれるのだ。
フィリピンには州に1つ、100万ペソ以上の資金を持つ共同組合銀行を作っていいという法律があり、「People`sBank(市民バンク)」と呼ばれる銀行が、その法律に基づいて出来たんだ。そして地域の人々がビジネスの代表を市民バンクの運営者いれて共同運営をしてゆくことになった。世界に初めて地域の人々が貯蓄し、貯蓄を担保にビジネスをやり、資金を増やし、担保と返済時に支払われる利子の一部によって、金融を発展させたわけだ。バングラディッシュにもグラミンバンクという市民バンクのように北の国が用意した資金があるのではなく、本当の意味での下からのボトムアップの銀行が出来た。これは持続可能な金融と呼ばれている。
「リオプラステン」は「プラス」ではない。92年の段階から見ると、アジェンダ21というのは実行されていないばかりか、はるかに後退している。そこをしっかりふまえて、新しいイニシアチブを創るべきだ。リオに「プラス」するのではなく、全く新しいコンセプトを作るべきだ。国連が行うものすごい沢山の会議、人権、人口、社会開発、居住、リオプラスファイブなどを開いてきて、沢山の行動計画を各国政府は約束している。ただし、ほとんど出来ていない。ほとんど達成されていない。むしろ後退している。なぜかというと、それはお金がないからだ。資金問題である。
ODAというのはすごく減り始めている。日本も10%以上減っているわけだが、他の国でも減っている。それは経済が停滞し、実態経済が減ってしまったので、そこから得られる税金でやりくりしている政府は、ODAも小さくせざるを得ない。だから「ODAを増やせ」と言ってもダメだ。各国はODAを国家予算の0.7%は出す、ということを1972年に決めている。しかしまったくやっておらず、そのパーセンテージも減っている。しかし、どこかからお金を出さなければならない。
お金がないわけではない。しかし、今の税金のシステムは製造業を中心に取っている。国際金融の世界では実際にものすごいお金がものすごい利益を生んで走り回っている。だから世界でもっとも急
速に発展したアジアでは、1997年、ヘッジファンドに襲われて一気に落ちこんだ。実体経済・モノを生産する経済にまわっている額に比べると、はるかにすさまじいものすごい化け物のようなお金が、カジノのように投機のために動いている。それが為替を変動させ、株
を変動させ、貧しい人々に最大の影響を与えている。この金には税金がかかっていない。これに税金をかける、ということが重要な課題なのだ。途上国が今アジェンダ21を執行するのに必要とする予算、
エイズを根絶するのに必要な予算が充分にまかなえる。これは、金が充分にあるにも関わらず、投機には全然課税がなされない、ことが問題である。為替でいうと、97.5%が投機である。それにわずか
な税金でいいので、かけるべきだろう。
2000年9月のIMF世界銀行にてNGOの声が高まるにつれ要塞化される国際会議場、果たして誰のための国際会議なのだろうか? |
多国籍企業を規制しようという動きが活発だった時代がある。それは70年代。かなり多国籍企業には国際的な行動規範を作ろうという動きがあり、国連の中に多国籍企業センターというのも作られたが、80年代につぶされた。途上国がダメになったことが一番の問題だった。途上国の中で一番発展していたメキシコ、インドネシア、韓国などで債務危機が起こり、破産状態になり、IMFが構造調整を引っさげて介入し、債務危機でない国も構造調整融資を受けるようになっていった。IMFが入ると完全に支配される。IMFは多国籍企業の代理。途上国がIMFの「言いなり」になった。債務問題を解決しなければ多国籍企業に何も言えない。
いま世界中で公共財の民営化が進んでいる。今狙われているのは教育と水。水産業が5兆ドル、教育が25兆ドルと計算され、グローバル市場拡大のための最後の投資先とされている。日本でも水の民営化があって、アメリカの企業が進出しようとしている。これに対抗するためのキャンペーンが進められている。いかに地方自治体が弱いか、ということに注目し、地方自治体の経営能力を高めようとしている。そうしなければ民営化される。単に多国籍企業とドンキホーテのように戦っても意味がない。今、京都議定書離脱を言ったブッシュに一番金を出した、ということでエッソの不買運動がアメリカからはじまり、世界中に広まっている。メールで「エッソのガソリンスタンドを通過する時はクラクションを鳴らす」というアクションを呼びかけている。このような形で闘うことは有効だが、それは個々の問題で、多国籍企業全体に対して民衆が戦うことは難しい。途上国に対する構造調整プログラムをやめさせる以外にない、水の民営化をやめさせる以外にない。基本的な問題は「公」の部分でやり、「公」の統治能力を高めることが大事。それは市民の力で出来る。それによっての解決しかないのだ。
私は依然としてリオサミット以来の環境の問題にはNGOの存在は大きいと思う。リオサミット以来、NGOの登録が進んで毎年持続可能開 発委員会(CSD)が開かれ、膨大な回数になっている。リオプラステンのオブザーバー登録を、少しでも多くのNGOが早くすべきだろう。アドボカシ−、ロビーイングの重要性を理解し、日本においては さらに発展すべきだ。しかし一方で今の世界は、ものすごい数の青年や1960年代、70年代からの活動をしている人たちがつながり、EUサミット反対、ジェノバサミット反対、ケベックの米州サミット反対、IMF/世銀総会反対を求めている。(文責:田辺有輝)