【司会(A SEED JAPAN木村)】
藤井さんありがとうございました。パネルの司会を勤めさせていただきます木村です。今回のパネル・ディスカッションの位置づけについて説明させていただきます。
オープニングでは企業活動の影響力が拡大しているということを背景として、「社会性・健全性・サービス性」という3つの観点で口座を選ぶということがエコ貯金であると説明させていただきました。そしてエコ貯金チームの土谷から金融機関の方々に対する提言を発表させていただき、日経新聞の藤井さんからこれまで取材経験を元に金融機関のCSRについてお話をいただいたという流れになっています。そこで、このパネルでは、土谷から提言させていただきました3つの点について、各金融機関の方々から意見を出していただきたいと考えております。まず一つ目は金融機関のCSRビジョン、二つ目は、融資をする際にふるいをかけるというスクリーニング、最後に社会的事業にお金を流していくという資金提供をテーマにパネル・ディスカッションを進めて参りたいと思います。
「預金者が選び、参加する金融」を伝えていくというフォーラムは日本でも初めての試みではないかと考えております。このようなフォーラムに参加するということも一つの対話であると思いますし、新たな金融の流れをみんなで作っていこうということでもあると思います。私はかつて地方銀行で融資を担当していました経験と現在、A
SEED JAPANを拠点にNPOバンクの設立を準備しております関係で今回は中立的な立場での進行役を頂戴いたしました。よろしく御願いします。なお、今回のフォーラム参加者について一言お知らせいたしますと、事前申し込みは100名以上に上り、金融機関関係者、NPO・NGO活動家、企業のCSR・環境対策の担当者、そして学生と幅広い層からご参加いただいております。
金融機関のCSRについてのメッセージ
【司会】
さっそくではありますが、パネリストの皆様から金融CSRに対するお考えと実際に携わっている事業についてのご説明を中心に自己紹介をしていただきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。
【多摩中央信用金庫 長島剛氏】
多摩中央信用金庫の長島です。よろしくお願いいたします。今回のフォーラムは、 ここから見渡しますとまるで就職活動中の学生を対象とした企業説明会のようで少
し緊張しております。まず、金融CSRに対する考えた方です。当方の会社でも CSRに取り組んでいるというものの、組織内にCSRに関して理解している人という
のはほとんどいません。しかし、我々は地域に密着した金融機関でありますので、 お客様である地域の生活者の方々あるいは中小企業の方々を訪問し、みなさまの悩
みを一緒に解決していくということを本業として行っております。この本業こそが 地域貢献活動であると捉え、信金ではなく、「地域の企業」でありたいと考えなが
ら活動しております。
【東京三菱銀行 田貝正之氏】
田貝です。よろしくお願いいたします。金融機関というものは、例えば日本中の ATMが壊れればそれだけでパニックが起きるわけですから、日常業務を行うことが
社会的なインフラを提供するという点ですでに社会的な責任を果たしていると誤解 している人間が社内にも多くおります。しかし、これからは社会的な課題、それま
で行政が行うと思われていたものですが、企業が取り組まなければならない時代な のだと考えております。その中で銀行としての役割、そして東京三菱としての特色
ある役割があるのだと思っております。このような背景で、A SEED JAPANのアクショ ンは1兆円は難しいと思いますが、2千億円ほどは可能だと思いますので、その点
についても後ほどお話したいと思います。
【女性・市民信用組合(WCC)設立準備会 向田映子氏】
私たちの活動は、金融機関というのは一つのブラック・ボックスであって、預金 してもその先がよく分からないという気持ちで始まっております。子供のころに私
たちがお年玉をもらったりしてお金を手にしますと、貯金したり預金したりするこ とがいいことだと言われておりまして、預貯金することばかりに気にしておりまし
た。しかし、本当は、その預貯金が何に使われ、どのように活かされるのかという ことがとても重要なことであるのに、それを私たちは求めないでここまで来てしまっ
たわけです。その点でCSRという言葉はまだ私たちになじみのない言葉ですが、金 融機関は今後、どのような経営理念で、どのようなところに融資をしているのか、
預貯金を何に活用しているのかということを預貯金者にもっと情報提供することが 必要になってくると思います。また、ディスクロージャー誌が発行されております
が、とても分厚くて、中身を見ても専門用語ばかりでとても理解できないものです。 より分かりやすい言葉で説明する責任があるのではないでしょうか。
お金の問題というのは社会に生きる全ての人々に関係するわけですから、そのお 金を融通する金融機関というのはとても大きな役割を持っていると思います。現在、
NPO法人の数が増加しておりますが、事業の立ち上げや運営に際してお金に困って いるNPOも多くいますし、そういった事業に対する融資に積極的に参画することも
必要であろうと思います。
【三重銀行 土方研也氏】
三重銀行の土方です。三重銀行というのは、首都圏にお住まいの皆さんには、あ まりなじみのない銀行かと思いますので、少し説明しますと、四日市市に本店を置
く地方銀行です。サーキットで有名な鈴鹿ですとか、三重県の北部から愛知県にか けまして営業を行っております。
金融機関のCSRについてですが、地方に行きますと、地方銀行というのは意外と まだまだ大きな影響力を持っています。ですから、地銀がなんらかの行動を起こす
ことによって、地域社会で見られる変革の兆しを支援し、あるいはそのような動き がなければ自らが創り出して運営していくということが地銀のCSRとして大切なの
ではないだろうかと私は考えております。
【中央労働金庫 山口郁子氏】
中央労働金庫の山口です。いよいよ、金融機関もアイデンティティが求められる 時代になったと感じております。お客様からお預かりしたお金をどのような意図で
使っていくのか、金融機関として融資という事業を通して何を実現したいのかとい うことを提示して、またそこからどのような成果が得られるのかということを皆様
に明瞭に伝えていかなくてはならないと考えております。また、社会的ニーズや資 金需要がどこにあるのかということを私たち職員がアンテナを高くして、見て、聞
いて、会社に新しい風を取り入れるという、金融で働く者の責任が問われる時代に なってきたとも感じます。預金者の方々との信頼、また社会の中での信頼を一番大
事にしていきたいと考えています。
【A SEED JAPAN 田辺有輝】
私たちA SEED JAPANの金融CSRについての考えについてご説明したいと思います。
私たちは金融機関、特に投融資を行う銀行のCSRとはどうあるべきか、ということ を議論したものを表にまとめました。ご覧ください。CSRの「R」とは、
responsibility、責任ということですから、責任というからには、どういった責任があ
るのかということを縦軸に3つ項目を設けました。法人としては当たり前に果たす 責任範疇であって、違反すれば刑罰が下される法令順守、本業である投融資を介し
た社会的責任行動、それとは別に、利益をどのように活用するのかということで社 会貢献活動です。また、横軸にはその社会的責任を果たす対象、ステイクホルダー
を3つの項目に分けました。預金者・投資家、融資先、被雇用者を始めとした銀行 本体です。
【司会】
一言だけ付け加えますと、A SEED JAPANでは、プレゼンテーションにもありましたように、金融CSRの中でも金融機関、銀行だけができること、本業である融資業務にCSRの観点を盛り込むことを求め、提言させていただいております。こちらの表にもありますようにCSRと言ってもさまざまな形があり、それは幅広い範囲にわたると思います。
金融機関のスクリーニング(融資先のふるいわけ)について
【司会】
パネリストのみなさまから今CSRについてのお考えをお聞かせいただきましたので、次はこの融資を通じたCSRである「スクリーニング」、つまり社会的観点から融資先をふるいにかけることについて、長島さんと田貝さんからお話していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
【長島】
わが社は一昨年に70周年を迎えまして、その際、昔の資料を紐解くことになり ました。昭和8年、立川において信用組合として開業いたしまして、その後に信用
金庫となったわけですが、やはりそこで講の話が出てきます。地域でお金の貸し借 りが難しい時に、お互いの資金を融通し合おうという発想で始まりました信用金庫
でございます。そして先ほどの藤井さんのお話ではないのですが、信用金庫となっ た後に地域が都市化するに従って、どうしても都市銀行に追いつけと、、、追いつ
くはずがないのですが、そのような感覚で運営しておりました。しかしここ数年は、 そうした事業だけをしていては、地域にとっては意味がないということに気づきま
して、そこで大きな方向転換をいたしました。
多摩地区は東京都に位置しておりますが、大学が70以上、研究・開発型企業が 多く在地しています。また、立川から新宿までは、立川から奥多摩へいくのでは同
じ程度の時間で行けます。多摩地区は30の市町村からなっておりまして、その中 多摩中央信用金庫は立川の本店を中心に出張所を合わせまして50の店舗がござい
ます。また来年の1月には太平信用金庫及び八王子信用金庫との合併がございまし て、84の店舗を抱える金融機関になる予定でございます。そうなりますと、多摩
地区最大の信用金庫となります。
私は外回りをしていますと、自分が「地域のコンシェルジュ」の役割を担ってい ると感じます。個人のお客様を担当して外回りをする職員は291名おります。多
摩地域には400万人ほどの方がいらっしゃいまして、私たちは外回りで色々なお 話を伺います。もちろんその際には資金運用や商品についての説明をしますが、一
番多い質問というのは「隣の松ノ木が敷地内まで伸びてきたのだけど、どう対処す ればよいかしら」ですとか、「隣の奥さんと近所づきあいがうまくいっていないの
だけど、どうすればいいと思う?」といった類のものなのです。それで「コンシェ ルジュ」という言い方をしているのですが、こういった日々の生活での困りごとで
ある税金ですとか、介護の話を聞きながら問題を解決していくというのが地域金融 機関の役割であろうと考えています。また、法人のお客様を担当する職員は、14
4名がおります。法人会社数に関しまして統計上は13万社と発表されていますが、 中小企業は実際にはそんなにありませんで、6万〜7万社であろうと想定されてい
ます。我々はその中小企業の方々のために、展示会の催しを始めとしたさまざまな ことをしております。
地域での循環についてのお話がありましたが、このテーマはわが社にぴったりで あると言えます。先ほど多摩地区には400万の方が在住しておりますと言いまし
た。そのうち100万〜110万の方とお取引をさせていただいておりますが、こ の個人のお客様と法人企業のお客様に対して情報をお届けする活動を行っています。
「地域で集まったお金は地域で使われますので、ぜひ預金してください」「この地 域で集まったお金はこのように使われます」とご説明することで、地域でお金が循
環していきます。また、職員のほとんどがその地域に在住しております。私も八王 子に住んでいるのですが、町を歩いていると昔融資した社長に会ってしまったりし
ます。奥さんとはもっとよく遭遇するわけですが、こういった状況であると、悪い ことなんてできないわけです。さきほど「スクリーニング」という難しい言葉があ
りましたけれど、このように通常の点検をやっていれば、地域のためにならないこ とはしませんよね。基本的にそういったところに融資をするというシステムにはなっ
ていません。
また、美術館、図書館などを所有・開放しています。このように、生活の場、ビ ジネスの場としてこれからも発展し続ける多摩地区を一緒に歩いていこうと思いま
すので、よろしくお願いいたします。
【司会】
実は私も多摩地区に住んでいて、大変興味深くお話を聞かせていただきました。その自分も住んでいる「地域の目」そのものがスクリーニング機能を持っているということでした。ありがとうございました。続いて田貝さん、よろしくお願いします。
【田貝】
今、多摩信さんのコミュニティ、地域社会への貢献という点を色々な視覚素材を 用いて説明していただきましたが、わが社の場合、そのような各支店で行っている
ことを今日はご紹介する用意ができておりません。私のプレゼンテーションは2枚 のスライドを用いて「銀行とは」というテーマで行いたいと思います。二枚目のス
ライドは、「公式には、銀行がどのように見えるか」をあらわしたものです。公的 な目で見ると、銀行はこのように見えているだろうという内容です。一枚目は今年
の東京三菱の新入行員向けの研修教材の一つなのですが、金融の根本がどのように 変化しているかを説明しようとするものです。
まず、一枚目のスライドについてです。金融庁との関係のお話をする場合には必 ず、「銀行法とは」ということになります。さきほども業態というお話がありまし
たが、各業態によって法律が定められていて、銀行もその法律のレールに乗っかっ ているということです。ここに銀行法第一条の条文が手元にあるのですが、その文
句としては「銀行業務の公共性にかんがみ」だとか、「預金者の保護」を意識した 法律です。それには昭和初期に銀行が非常に無責任な貸し出しをしまして、その結
果預金の引き出しができなくなったという背景があります。そして、「預金者にちゃ んと預金が返るように銀行をちゃんと監督しなくてはならない」という枠組みがで
きたわけです。
次に銀行法21条では、「だから、預金者を安心させるために銀行業務の内容を 預金者に説明しなくてはいけませんよ」と「業務報告書の縦覧」という難しい言葉
を使って言うのですが、実はIRと呼ばれる株の投資家への説明以前に銀行は業務報 告書といったものを店頭において、今ですと業種別貸出の明細のようなものも含め
て説明をしています。しかし、先ほど向田さんがおっしゃられたように、業務報告 書には数字ばかりが並んでいて、人が見ても何のことだか分からないに違いないだ
ろうとは思います。
銀行の役割、社会的使命というのは皆さんがおっしゃられるように金融仲介や決 済システムが基本です。またディスクロージャーに関しても、預金者が理解できる
ものでないといけません。例えば、城南信用金庫さんのディスクロージャー誌とい うのは何種類かあって、その中には漫画で書かれているものがあって非常に分かり
やすいものです。可能であれば、わが社の社会環境貢献活動についても漫画で書か れた分かりやすいものができたらいいなと思います。
次は、融資、投資のお話をします。融資というのは、例えば、企業に貸し出すお 金、つまり企業から見ると借入金ですが、これはその企業が潰れたときに裁判所が
一番初めに返してくれますが、優先弁済権といいます。次に、出資、投資と言われ る、つまりは株ですね。これは、企業が倒産した際に、銀行が貸出金を回収し終わっ
て、まだ残っている財産があったらそれで回収できるというものです。その代わり に値上がり益も配当金ももらえるわけです。このようなリスクを進んでとる人が株
主となっていて、そこまでのリスクが取れないと思えば融資をするわけです。銀行 は融資をするわけですから、審査をする目線というのがあります。「あなたは、何
を目的として、どのような事業を行って、どのようにお金が回っているのですか?」 といった質問に、ちゃんとした答えが返ってくれば、それでお金が回って返済され
るわけですから、当然お金は貸しますよね。そして、ちゃんとしたお答えがなけれ ば、基本的に融資するということはありえない、と思っていただいてよいかと思い
ます。
どこからお金が入って、どこへ出て行くのかということがちゃんと説明できれば よいのです。「NPOだから融資しない」とは銀行は言っていません。このフォーラ
ムで議論されているのは、「社会の問題ってなんだろう、環境問題は、地域の問題 は」という「問題」が出発点であって、「銀行」が出発点ではありませんよね。社
会には色々な問題があって、その問題を解決する当事者は多くいて、銀行はその一 つであるわけだから、銀行は今まで以上に色々なことができるのではないか、とい
うことだと思います。それでは具体的にどうするのかということになるわけですが、 今週火曜日に今年採用されました新人555人を集めて一時間半のワークショップ
をしました。ここでは社会目線の非常に良い議論が多く出てきました。いまから入っ てくる世代が銀行を変えてくれるということを私の回答に変えさせていただきたい
と思います。
【司会】
ありがとうございます。私が銀行にいたのは2年半前ですが、そのころにそのような研修はなかったのでうらやましいなと思いました。A
SEED JAPANの田辺から何かコメントがあるようでしたら、お願いします。
【田辺】
まず、長島さんにお聞きしたいことがあります。ここ10年ほど大きく変化して いる郊外の経済の動き、「超郊外化」についてです。戦後に鉄道が開設されて、そ
の後商店街などは駅周辺に立地し、国道が整備された後には土道路沿いにも商店が 集まるようになった。郊外の経済というのはこの駅周辺、また道路周辺の商業圏が
大きな位置を占めていたと思いますが、ここ10年ほどは郊外のさらに奥まった地 域につながるバイパスですとか高速道路が建設されて、それが脅かされているとい
う問題があります。つまり、超郊外に外資などの大型巨大スーパーなどができて、 地域経済の核となっていた商店が閉店に追い込まれているということです。多摩信
の多摩地区というのは東京のベット・タウンという位置づけが大きいこともありま すので、典型的な郊外とはいえないかとは思いますが、このような問題にたいして
地域金融を担う金融機関としてどうお考えかをお聞かせいただきたいと思います。
また、田貝さんへの質問です。これまでの銀行というのは、法律に違反していな ければなんとかなって、社会的にも追い詰められることはなかったわけです。しか
し、法律を守っていても、社会的な問題が次々と顕在化してきたのがここ十数年の ことではないだろうかと思います。たとえば環境破壊であったり、法律の下でダム
を建設してもその下流の住民の生活を脅かすことになったりといったケースです。 このような法律を守るだけでは社会問題の発生させてしまう状況で、自ら融資基準
を設けてそういった問題をいかに抑制するかという姿勢が重要だと思います。つま り、あまりに社会的影響力が大きいものを脅かすような事業には融資しないという
ネガティブな基準を持つことを銀行に求めていきたいと私たちは考えています。こ のようなネガティブな基準をもって、融資先をふるいにかけるネガティブ・スクリー
ニングを取り入れる動きが、欧米の主要な金融機関を中心に広がっています(※ネ ガティブスクリーニングの事例表を挿入)。社会的、環境的な影響が多大なプロジェ
クトに関しては融資しないことをあらかじめ約束する金融機関が増え始めているの です。日本に関していいますと、国際的なプロジェクト・ファイナンスに関しまし
ては金融機関よりも商社が多く参加しているというのが私の感触でして、それもネ ガティブ・スクリーニングの取り組みが遅れている要因の一つであろうとは感じて
おります。しかし、欧米の銀行では、ネガティブ・スクリーニングの他にも、自ら のエネルギー消費の消費量を公開した上でその削減に取り組むですとか、植林事業
に関しては第三者から持続的開発であることを認証されたものに限って融資すると ころが増えています。それは違法伐採といったネガティブ・スクリーニングだけで
はなく、さまざまな基準をつくってさまざまな次元で社会環境貢献を本業で行う動 きです。こういった風潮がある中で、国際的な業務を展開しているメガバンクとし
て、大規模な海外プロジェクトに関しましてどういった姿勢で取り組んでいるのか ということをお伺いしたいと思います。
【長島】
確かに八王子など、交通の便がいい地域には大型店の出店が進んでいます。 そして、それに伴い駅前の商店街やデパートが衰退する、という事例も数多
く起きています。こうした中、地元で買い物をしよう、地元を活性化しよう、 という「エコ貯金」的な動きは、私も起こってほしいと思います。しかし、
地元だからといって古くて高いものを買うでしょうか。地元企業でも、努力 をしなければ、市場から撤退せざるを得ないのは仕方のないことだと思いま
す。
やはり、この町に住んでいて良かった、と思えるような店があり、企業が あり、そこに人が増えることで、街が活性化します。今では生活の場である
と同時に、ビジネスの場になっている多摩地域ですが、住みやすく、仕事も しやすい街として活性化するための支援をしていきたいです。
【司会】
常に地元に対する視線をお持ちなのですね。続いて、田貝さん、ネガティ ブ・スクリーニングについていかがでしょうか。
【田貝】
本日の資料に、環境や人権に配慮した融資基準を設けた海外の大銀行が紹 介されていますが、それは、違法伐採に融資してきた欧米の銀行がいたから
にほかなりません。日本の銀行は、資源国収奪の歴史をそれほど持っていな いので、出発点が違うと思います。しかし、昨今では悪いことをしていない
ことをはっきり言わないと「きっとやっているに違いない」と思われる風潮 があるので、東京三菱では環境方針と社会・環境的な融資の代表的事例をホー
ムページで紹介しています。
ネガティブ・スクリーニングという言葉は使いませんが、銀行が行っては いけないことについては銀行法などで数多く定められているので、ある面で
はかなりのものが排除されているものと思ってください。他方、こんなこと が言えると思います。例えば手元のこの紙も原料には違法伐採の木材が混じっ
ているかもしれません。もし、みなさんがこの紙を買わなければ、木材を輸 入する商社や製紙会社の事業が成り立たなくなり、その企業に融資をするこ
とはできません。ところが「社会的に悪い面もあるが、みんながその商品を 買っている」という状況では「それは社会的に認められており、しかもお金
もついて回っていて、きちんと回収もできる」と銀行側は判断します。最終 的に融資基準を決めるのは社会なのです。また、バブル時に「最大限に環境
配慮した設備です」と立派な設備を披露してくださった社長さんが多くいま したが、どんなマーケットにどんなシェアを持っていて、この設備を使って
どう利益を上げるのか、と聞いてもきちんと答えられない。肝心の本業がお ろそかになっていたのです。
その反省に基づいて、現在銀行としては、借り手である企業がどのように 本業を考え、どのように社会的責任を果たそうとしているのか、それによっ
てお金がどう回るのかを審査しましょう、という流れになっています。銀行 としての本来の姿に戻りつつあるのだと思います。
【司会】
アリスセンターの『たあとる通信』16号でも、公共性と収益性のバランスをどうとっていくかが金融機関の課題と指摘されていますが、東京三菱さんもまさにそのバランスをとり始めていらっしゃるのかと思います。
次に、他の金融機関の方にも融資審査の際のポイントとそれにあたっての取り組みを伺いたいと思います。向田さんからお願いいたします。
【向田】
融資基準については、地域社会を豊かにする事業かどうかが最大のポイントです。 私たちは神奈川県という地域に融資先を限定していますが、それは地域の中で助け
合いたい、という理由に加えて、融資する際に大事なのは情報だからです。同じ地 域であれば、その事業が地域の中でどう役立っているか、採算性や継続性が担保で
きているか、という情報が集めやすく、コミュニティのなかにいなければわからな いことも多いのです。北海道や九州にまで調査をしにいくわけにいきませんからね。
また、何よりも大切なポイントは「何としてでもやりぬくぞ」という、事業に関 わる人たちの気構えですね。アメリカのコミュニティバンクで調査をした方から、
融資にあたって最も重要なことは、やっている人たちの性格だという話を聞いたこ ともあります。
【土方】
私は審査部で、普段は第三者保証なしの無担保ビジネスロ−ンなど、各種貸金審 査を担当しています。そうした立場から申し上げると、銀行が審査にあたって最も
気にすることは、「融資先が結果的に悪さをしてしまった」という事態です。こう した場合、銀行は世間から非常に叩かれるため、融資には慎重になります。NPO団
体への融資については、地域に必要な事業であるならば、NPO団体であるというだ けで制限しているわけではありません。しかし正直に言って、とっつきにくい、と
いうことはありますので、銀行側もNPOのことをよく知って、お互いに歩み寄って いくことが大事だと思います。
【山口】
中央ろうきんがNPOに融資する際には4つの基準があります。@経営評価。代表 者の考えや団体のミッションです。A組織運営。理事会の機能や、民主的な意思決
定が行われているのか、理事の経験などです。B事業評価。その事業が地域の中で 果たす役割はどんなものか。C財務評価。事業の収支の状況です。C財務評価以外
は、数値化することがまだ難しい部分です。NPOといっても多様な事業や形態があ るため、必ず現場に足を運び、理事会メンバーや代表者に会っています。それでも、
金融機関だけでNPOを見極めるのは難しいと考え、中間支援組織やNPOバンクとの 連携が必要だと思っています。そして、情報セキュリティには十分注意しながらで
すが、ノウハウや情報を共有し循環させることで、大きな可能性が広がると思いま す。
【司会】
それでは、ここでフロアとの質疑応答の時間を設けたいと思います。
【フロア】
田貝さんにお伺いします。新入社員研修の中ではどんな議論を促したのでしょうか。
【田貝】
新入社員は銀行で数多くのルールを覚えていく中で、銀行員目線でしか物事を見 られなくなります。今回の「チャールズ・マサンバの話」を用いた研修の狙いは、
彼らにもっと広い視野から、社会のさまざまな問題に対して銀行がどんな役割を果 たすことができるか、その可能性を考えてもらうことです。「融資をする前の段階
で持続可能な国の発展のあり方を考えねばならなかったのではないか」「日本には 金融資産があるから、途上国等の社会開発ファンドを作って公募してはどうか」と
いった議論をすることで、将来に向けて頭をやわらかくしておくことが必要だと考 えています。
また、利益についてもこれが誰のものかについて議論し、寄付するほかにも、社 会開発の問題に対して、金融という手段を使ってどんなことができるかを考えても
らいました。
【フロア】
質問と意見が3点あります。1つ目は国債、特に米国債の問題です。金融機関で働いている方で、米国債が本当に戻ってくると思っている方はどのくらいいるのでしょうか。私は到底戻ってくるとは思えません。アメリカの政府関係者でIMFなどに関係している人たちが3本のレポートを書いており、その代表が、ネバダレポートです。財政破綻後の日本をどう処理するかについて書かれており、日本の資産がガタガタになり、日本の株式は買いあさることができるとされています。日本の財政破綻は時間の問題だと思いますが、こういう状況で日本国債を買い、それが米国債に化けるというのはサギに等しい。こういう状況についてどう考えていますか。
2つ目はペイオフの問題です。金融危機が来たときには、せっかく「エコ貯金」でお金を移しても小さい金融機関はどんなに健全でも破綻しやすく、我々が変えていきたいと思っているメガバンクは国が救済する、という状況が生まれることを危惧します。「エコ貯金ナビ」チームの方々には、そのことを伝える必要があるのではないでしょうか。
3つ目がNPOへの融資制度の問題です。これは一般の融資とは質が違うと思います。市場原理の拡大に伴い、穴の開いた領域ができてしまいます。社会が成立するためには必ず必要だけれども、行政もその穴を埋めにくい、という領域です。かつては相互扶助で培われていた部分も、戦後崩れていきました。この領域のためにNPOが立ち上がるのですが、市場原理では埋められない以上、もとより充分な利益はあがらないのです。こうしたNPOへの融資は低金利である必要があり、制度を準備しておく必要があります。日本にはNPOへの優遇税制がありませんが、融資制度と同時に他の制度も整備することが重要だと思います。例えば、ドイツの自然エネルギー制度の場合、固定価格での買取制度があるから投融資の回収がきちんと行われるのです。
【司会】
どなたかお答えいただけますか。
【田貝】
まず、日本国債の問題は本質的な問題だと思います。日本は毎年、国債の利払い だけで税収の半分以上を使っているからです。今後、金利が上がると言われており、
現在の低金利で税収の半分を使っているわけですから、金利が1〜2%になれば使 える税収はさらに減っていきます。ですから、放っておけば、理論的にはアメリカ
が破綻する前に日本は破綻するとの考え方もありえます。この問題は国民1人ひと りが抱えている問題であり、一企業にできることは限られています。
次にペイオフの話ですね。メガバンクと地方の銀行との役割はもともと違います。 たましんさんは立川を中心に数多くの店舗をお持ちですが、東京三菱は例えば立川
市には1支店しかありません。たましんさんの場合、日常的なチェックができると のことですが、当社の場合3ヶ月に1回程度のチェックしかできない取引先も出て
くるわけです。地域に近いほど情報にも経営にも近いため、むしろ地域の金融機関 のほうが不良債権比率は低くなり、メガバンクが国債などの影響でやられる、とい
うことも起こり得ると思います。ただし、不動産など本業以外の部分にお金をつぎ こんでいくと、地域金融機関の方が体力がないため、先に倒れるだろう、と思いま
す。
最後にNPOへの融資制度の問題ですが、そもそもNPO法という法律ができたころ から歪みはあるわけです。例えば、アメリカでは、銀行からお金を借りることをオ
ルタナティブファイナンスと呼んだりします。そのくらい、起業などをする際には 投資家からの直接金融が一般的であり、融資はつなぎ資金程度だったりします。と
ころが、日本は間接金融の比率が非常に高いので、銀行に頼ります。これは、1人 ひとりがリスクをとる文化を持っていないためです。日々、自分の生活のなかで自
分の事業や自分のスキルがいくらで売れるのか、という市場感覚が薄いので制度的 な歪みが出るのは当然だと思います。
【向田】
NPOの問題も制度の問題ですが、国債の問題も制度の問題につながるでしょう。 預貸率を上げる場合、貸せば貸すほど自己資本比率は下がっていき、4%以下にな
れば業務停止命令が下るわけです。これに対して、預消率という言葉が最近生まれ ました。預金に対する国債などの買ったものの割合ですが、これは現在どんどん増
えています。銀行は「融資の需要がないから」と言うかもしれませんが、安易に 「安全なお金」ということで国債などの債券にお金が流れているのではないでしょ
うか。私は金融庁の金融検査マニュアルなど、制度にも問題があると思います。
また、先ほど田貝さんは「私たちがリスクを負っていない」という話をされまし たが、自分たちの住む地域社会を豊かにしたいと考えるならば、まさにリスクをとっ
てでも、地域の銀行に自分の預金を移し変えていただきたい、と思います。信用金 庫が破綻した背景には、金融庁などの検査側の問題もあると思います。1県に信組
は1つでいい、というのは検査する側の、簡単に審査するための論理です。もちろ ん、コミュニティバンク側にもディスクロージャーや経営者の選任など色々な問題
がありますが、それだけでなく構造的な問題がやはり存在すると思います。そのこ とを見抜き、「地域金融機関は危ない」と言うだけではなく、お金を預け、そして
「預金をどう使っているのか公開しなさい」「もっとこういったところに融資しな さい」と物申していくことが、金融を変えていくことになるのだと思います。
NPOへの融資制度の問題についてですが、藤井さんがおっしゃったように、市民 金融と主流金融機関との連携が重要だと考えます。私たちWCBでも、融資するお金
が不足したとき金融機関が貸してくれず、お金を持っていそうなNPO法人を回って 集めたことがありました。ですから、いわば中間支援組織のような存在である
NPOバンクにメガバンクが低利で融資する、ということもあっていいと思います。 何十兆円という大きな産業になった消費者金融ですが、メガバンクや地銀はそこに
非常に低利で融資をしています。であればNPOバンクにも低利で融資をすれば、そ れは金融機関のCSRを高めることになると思います。
社会事業への資金循環ついて
【司会】
それでは後半は、社会問題を解決する事業を支援する資金循環、というテーマで進めていきたいと思います。WCB、三重銀、中央ろうきん、それぞれの取り組みを順にお伺いしていきます。
【向田】
私の話は、「今までと違ったやり方でお金と付き合おう」、という趣旨の内容で す。私たちは、女性・市民を中心とした銀行を作ろう、という目的で集まった団体
です。私たちは、信用組合を作りたいと考え、これまでも旧大蔵省や金融庁と折衝 してきましたが、現在のように利ざやが少ない中では設立は難しいと判断し、この
活動で集まった出資金を元手に、現在は出資した者同士で助け合う活動をしていま す。
貸し倒れは全く無く、透明性を高めるため広報誌を年4回発行しています。
このような活動を始める背景についてお話します。バブルが1990年に弾けて、北 海道拓殖銀行などの金融機関が破綻する中で、自分たちと金融機関との付き合い方
を考えるようになりました。いろんな問題があったのに、見過ごしてきたのではな いかと思ったのです。私は生協の活動をしてきましたが、組合員からたくさんの市
民事業が生まれてくる中で資金が不足する事業も出てきました。そこで、不足する 資金の借り入れを金融機関に申し込んだところことごとく断られ、私募債を募った
り生協から借りたりと、苦労して資金調達したことが20件ほどあったのです。それ なら、自分たちで協同組合形式の金融機関を作れないか、と考えて設立準備会を立
ち上げました。
今までの日本の金融機関の問題は何でしょうか。公的資金の投入、銀行のメガバ ンク化の是非、国の方針と結びついた信用組合の破綻、銀行の消費者金融への低利
融資や参入による多重債務者の増加、などがあります。一方で、世界では「グリー ンバンク」や「ソーシャルバンク」と呼ばれるオルタナティブな金融の流れが起こっ
ています。市民事業や環境配慮型の事業に融資をするこうした銀行は、私の知る限 りドイツ、オランダ、ノルウェー、スイス、イタリア、オーストリアなど9カ国に
あります。例えばイタリアのバンクの場合、社会性を地域の組合員が審査し、財務 を本社が審査するといった分業も行われています。こうした銀行同士は横のつなが
りがとても強いのが特色です。アメリカには1990年代に200行近くのコミュニティ 銀行が生まれ、現在では9,000行以上あります。アメリカは地域を大事にする国で、
自分のお金は地域の中で回す、という意識がとても強い国です。マイクロクレジッ トが約70カ国にあることはみなさんご存知でしょうし、地域通貨も注目される動き
です。
私たちの融資審査委員会には金融機関のプロは一人もいませんが、自身で市民事 業を行ってきた人間が融資審査を行っています。これまで72件を融資して、一回も
貸し倒れがないことが、私たちの自慢です。もしこれからNPOバンクを作りたいと いう人には、資料やノウハウを提供したいと思っています。ぜひみなさんの地域で
も、こうしたバンクを作っていただきたいと思います。
【土方】
三重銀行は、循環者ファンドという地域通貨を活用した資金循環の仕組みづくり に参画し、それを組み合わせてJマネー定期という商品を開発しました。もともと
三重県は北川知事のときNPOの支援に力をいれてきた先進的な県で、NPO活動が比 較的に盛んでした。しかし、資金面では他県と変わらず、融資制度はもちろん、助
成や補助などが不十分でした。また、コミュニティの関係性も希薄化していました。 そこで、こうした問題を解決したいと考え、地域のNPOの方々や三重県職員らと協
力しながら、循環者ファンドの仕組みを作ってきました。
この仕組みのポイントは、次のようになります。個人や企業から寄付を募り、そ れを三重銀グループも支援しているJファンド事務局が、寄付者の指定したNPO団
体に橋渡しします。その寄付に対する感謝の印として、四日市発の地域通貨Jマネー を発行します。そのJマネーを触媒として、人と人のつながり、地域社会の構成員
の交流を目指すのです。既存のビジネスの中でも、このお金を使えるようになって います。Jマネーを受け入れる企業や商店が70店あり、三重銀も振り込み手数料と
して一部受け入れています。こうした企業は、たまったJマネーをボランティア活 動に対する謝礼として支払ったり、役職員に贈呈したりします。こうして、また
Jマネーが市民に戻っていきます。
三重銀はこの地域通貨と、定期預金を組み合わせました。Jマネー定期を10万円 分預金すると、利息に加え三重銀が100万円の寄付をして手に入れたJマネーのう
ち、100Jがもらえるのです。この商品は好評を博し、10億円の販売枠を順調に消化 しました。預金者からは「三重銀のお堅いイメージが変わった」といった声もいた
だきましたし、NPOからは「Jマネーを通じて、企業との接点を持つことができ、 それ自体がプラスだ」という声を聞きました。この活動を通して、三重銀もNPOと
の接点が広がり、経営層にもNPOの融資制度を求める声が届くようになっています。
【山口】
ろうきんは労働組合や生活協同組合がお金を出し合って作った金融機関です。働 く人たちが相互に助け合うことための、営利を第一の目的としない金融機関です。
ですから、預金は働く人々の生活資金や住宅資金、労働組合の活動資金として融資 されます。労働金庫法で、営利を目的とした事業には融資できないことが定められ
ています。
そんなろうきんがNPOを応援する理由は、一つにはNPOとろうきんの理念に共通 点が多いことがあります。一方、NPOの現場では、ヒト・モノ・カネが不足してい
るうえ、新しい存在であるために信用力に乏しい、という悩みがあります。市民活 動が、最大限にその力を発揮するための社会基盤が整っていないのです。
その現状に対して、金融機関にできることは何かを考え、3つの取り組みを開始 しました。1つ目は、NPOへの助成プログラムを1998年に立ち上げました。そして、
さらに成長し、今度は事業化したいという団体のために2000年に融資制度を開始し ました。これは、NPO法人対象の融資制度としては国内で初めてでした。また、ろ
うきんは働く人々が、自分の預金を使って運動を行うという運動性のある金融機関 ですので、さらに、預金者の方に参加していただけるよう寄付型の預金商品を販売
しました。
融資制度の「NPO事業サポートローン」は、無担保で500万円、担保があれば 5,000万円を融資しますが、ほとんどの団体に無担保で利用いただいています。発
売からの5年間で13のろうきんのうち11に広がり、142件、約9億円の実績があり ます。中央だけなら55件でおよそ3億円です。
私たちには金融機関としてお手伝いできることとできないことがあります。例え ば地域の介護や職場の問題などに対しては、できることは限られています。そうし
た場合、地域に根ざして社会的に有用な活動をしているNPOと協働することで、社 会をより良くすることを金融機関として始めました。社内ではこうした取り組みを
グッドマネーという呼び方をしています。
私の考えるろうきんのCSRは、働く人の預金を生かす福祉金融機関として、また、 労働組合や生協、NPOとともに社会をよりよくする運動体としての両輪で動いてい
くことだと思います。わたしたちをとりまく問題は何かを見出し、そしてその問題 を金融機関が持つさまざまな機能を通じて解決するため、人や情報を循環させる役
割を金融機関はもっと担うことができると思います。
【司会】
WCC、三重銀行、ろうきんの三者から発表いただきました。多摩信も地域向けの事業を行っていらっしゃいますが、関連してお話をいただけないでしょうか。
【長島】
たましんではNPOへの融資を行っています。支店では最初なかなか対応が難しい という声がありました。そこで各支店に教育をするとともに、本部にNPOにアドバ
イスし指南する機関を設けました。そのうえで、また各支店で決裁をするようにし たことで、うまくいくようになったと思います。
【司会】
それでは、会場から質問はいかがでしょうか。
【フロア】
未来バンクの理事長をしております田中です。質問ではなく、コメントをします。私は今回の話を聞いて「合成の誤謬」という言葉を思い出します。みんながいいことをやっているはずなのに、結果として世の中は悪くなっている、という問題です。環境も破壊され、戦争も起こり、人々は追い詰められている。どうしてこんなことになってしまうのか、大変疑問に思います。
私たち未来バンクは、お金を使った市民運動をしています。市民運動が中心で、お金はあくまでツールなのです。それが市民事業や市民融資と呼ばれているのだと思います。合成の誤謬が起こるのは、こうしたさまざまな活動が全体の中ではまだ点の動きでしかないことがあるでしょう。また、ここにいらっしゃる方々も含め、未来の結果に対して責任を取る、という姿勢がまだ十分ではないのではないか、と思います。環境破壊をしている事業に融資をしてしまっている、戦争に使われる資金を提供してしまっている、という現状がある中で、どのように責任をとっていくのかが問われていくのではないでしょうか。
この問題については、第一義的にはやはり預金者に責任があるのだと思います。田貝さんがおっしゃったように、預金者が変わらなければ金融機関も変われない、ということがあると思います。これまで、市民側の声の上げ方が足りない、そして企業が市民の声を聞かない、という状況がありました。どちらかが歩み寄らないと、この「合成の誤謬」は解決しないでしょう。そして、いい思いを形にしていくために、お金は非常にいいツールなので、これからもお金の流れを変える動きを伸ばしていきたいと感じています。
【司会】
まさに、本日のテーマ「預金者が選び、参加し、創る銀行」のように、預金者が変わらなければいけない、というメッセージいただいたと思います。ありがとうございます。
預金者へのメッセージ
【司会】
それでは、最後にパネリストのみなさまから、預金者へのメッセージを一言ずつお願いします。
【長島】
信用金庫として、ではなく「地域の金融機関、企業」として今後も歩んでいきた いと思います。地域の中で皆さんに認めていただけるようにがんばっていきます。
【田貝】
メガバンクはこれまでつぶれない、信用、ブランド、ということでしか見られて きませんでしたが、今やつぶれない銀行だからといって選ぶ時代ではなくなってき
たと思います。メガバンクならではの全国区・グローバルでの特色を出し、それに よって選んでいただける銀行でありたいと思います。
【向田】
GLSコミュニティ銀行のスローガンに代えたいと思います。今までと違ったやり 方でお金と付き合おう。つまり気づいたら行動しよう、ということです。さあ、預
金を移し変えましょう。
【土方】
Jマネー定期を発売したことで、この趣旨に賛同して買ってくれる人が確かにい らっしゃいました。今後もこうした商品を発売することでお客さんとコミュニケー
ションをとっていきたいです。
【山口】
お金は社会を変えていくための道具だと思います。金融機関も預金者も、その社 会を変えていく担い手であり、監視役だと思います。信頼と共感に基づく、いいお
金の流れを作っていきたいと思っています。
【田辺】
国が破綻や経済縮小したときに、地域の人々が地域のお金を事業継続が可能な金 利で貸すノウハウを蓄積することが重要だと思います。
【司会】
最後に基調講演をいただいた藤井さんにも一言いただきたいと思います。
【藤井】
本日の席順はメガバンクからNPOバンクの方まで横一列に並んでいますが、これ は大変象徴的です。従来はピラミッドでしたが、これからの金融はこうなるでしょ
う。どの金融機関も預金者に向き合うという意味では共通しているからです。その とき大事なことは、信頼されるかどうかです。信頼は大きいから生まれるのではな
く、コミュニケーションによって生まれるのです。どうやって価値を伝えていくか が金融機関の原動力につながり、伝えることのできた金融機関を、この会場の方々
は選ぶのでしょう。
そうした預金者が増えていくことで、日本の経済や社会がよりよい方向に向かっ ていくことを期待しています。
【司会】
金融機関のCSRはこれまでは遅れていたかもしれませんが、こうした対話の場を持つことの重要性に気づいて、これからも注目していただければと思います。
これにてパネル・ディスカッションを終わりたいと思います。ありがとうございました。 |