【開催報告】11/10(日)共催セミナー<なぜ私たちは今、 気候非常事態宣言を求めるのか>  

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はじめに

気候変動問題を自分ごととして理解することは、容易ではありません。 

一方では身近な問題とも言えますが、他方ではあまりにも遠くにあるものとして扱うことできるものだからです。 

そういった問題を扱うことはどういうことなのでしょうか。2019年には2度におよぶ台風による甚大な被害が日本を襲いました。それに際して、ディア、政治、人々の会話から聞こえてくるのは、防災・減災への取り組みの強化の議論ばかりでした。個人的な感想としても、ここ10年で考えて、明らかに猛暑を感じる頻度増え、クーラーをつけずに生活することはもはや困難になりました。むしろ、メディアなどを通して、積極的にクーラーの使用を呼びかけるほどその暑さは過酷になっているのです。いまや熱中症は人を死に追いやる危険な症状であることを私たちは深く学ばなければなりません 

また、激甚化した台風は首都圏を襲い、千葉県などでは大規模停電が発生しています。安心と安全を追求してきたこの社会が、それを凌駕する力でって自然が猛威を振るっているのです 

これまで長きにわたって科学者たちの科学的な論文、説明、警鐘の声がどれだけあがっも、私たちの社会はいまだに既存の枠組みからの脱却(パラダイムシフト)をできずにいるのです 

セミナーテーマである「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration, CED)とは何でしょう 

その名の通り、現在の気候変動の状況を非常事態として認識し、市民に、国民にその重大さ、深刻さ、緊急性を積極的に訴える宣言となっています。それは宣言にとどまらず、社会全体のさまざまな資源を動員し、私たちの生活そのものの変革を目指しつつ、文明社会を維持するための号令とも言えます。 

宣言を最初にしたのはオーストラリアのある町でした。 

オーストラリアのメルボルン郊外のデアビン市が2016年12月にCEDを議決します。その後、世界中の自治体での発表が矢継ぎ早でなされています(12月12日現在1,247自治体)。その代表例としては、ロンドン、ニューヨーク、パリなど世界的な大都市が挙げられ、日本の自治体としては長崎県壱岐市、神奈川県鎌倉市がセミナー(2019年11月10日)当日時点で発表をしているだけでした(2020年1月28日時点で長野県北安曇郡白馬村など合計8の自治体が発表するに至っています)。また、セミナーにもご登壇いただいた千葉商科大学は日本の大学として唯一CEDを発表しています(2019年1130日現在)。 

国内においては、この世界的な潮流の後押しを受け、9月13日にFridays For Future Tokyo(FFFT)が東京都に対してCEDを求める請願を都議会に提出し、11月29日(グローバル気候マーチと同日)にはその請願の審査が行われることになっていました 

 そういった状況の中、2019年11月10日、A SEED JAPANはFridays For Futureと共催でセミナー<なぜ私たちは今、 気候非常事態宣言を求めるのか>を開催しました。 

 開催にあたっては、上述の壱岐市および千葉商科大学、壱岐市のCED発表の決断に決定的な影響を与えた環境経営学会様、そして、FFFTのオーガナイザーにご登壇いただけました。ある意味で今回のテーマであるCEDの当事者と呼べる方々がスピーチをするということもあり、想定以上の来客となりました。 

第1部 

まずは、環境経営学会会長後藤俊彦さんより、「気候変動の今と気候非常事態宣言」と題して、CEDおよび気候変動の危機的状況(気候危機)について報告いただきました。IPCC「1.5°C特別報告書」をもとにした平均気温上昇のシナリオ、それにより発生するであろう極端気象についてなど、普段の生活ではなかなか見聞きすることの少ない貴重な内容した。 

とくに今回のCEDを国内で推進している団体として、いちはやく「『気候非常事態宣言』に関する声明」(2019年8月1日)を発表しており、気候変動の「緩和」と「適応」の重要性を訴え、さらにESG投資やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)など金融、ビジネスに関する最新の動向なども網羅的にご紹介いただきました。 

発表資料:https://drive.google.com/file/d/1PhxfJvS54b7K1yK83wYOOw5zgW1JbGDE/view?usp=sharing

次に、本セミナーの主役でもある長崎県壱岐市よりSDGs未来課課長小川和伸さんに報告をしていただきました。 

上述の通り、壱岐市は日本で最初にCEDを発表したことで注目を集めましたが、2018年6月15日には「SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」に選定されており、気候変動にかぎらず持続可能な社会の推進に積極的に取り組んでいる自治体としてリーダーシップをとっているとも言えます。 

報告の中では、基幹産業である漁業への深刻な影響について語られており、2008年と比較すると、2017年の漁獲量が約5割も減少しており、その原因地球温暖化によ海水温上昇したことによる藻場の減少にあるということでした。また、「50年に1度」と呼ばれるほどの大雨がここ3年間ですでに3回発生し、道路崩壊や崖崩れを引き起こしていたり、一方では梅雨の時期には少雨による水不足が農業に打撃を与えていたりという状況を経験していました。 

そういった中で、環境経営学会から発表されていた「気候非常事態宣言に関する声明」に市長が興味を持つことになりま 

前例にとらわれない市長のこの決断の結果として日本で初めて「気候非常事態宣言」が発表されました。 

その宣言文には、2050年までの市内利用エネルギーの100%再エネ化、気候変動の非常事態に関する市民への周知啓発に努めること、4R(Refuse[リフューズ]、②Reduce[リデュース]、③Reuse[リユース]、④Recycle[リサイクル])の徹底した取り組みなどが述べられています。 

また、報告者の小川さんからは宣言をする上での苦労話として、宣言文の日本語での「雛形」がなかったこと、専門用語への不安、市議会への説明の難しさなどを取り上げていました。 

さらに宣言文に「4 日本政府や他の地方自治体に、「気候非常事態宣言」についての連携を広く呼びかけます」とあり、宣言後には今回のセミナーへのご登壇のように市をあげて、さらには市長自らも積極的にCEDの普及に尽力されているようです。 

発表資料:https://drive.google.com/file/d/1N1r6_vgu2n3qDaW2D2FaEfox7yeLtf03/view?usp=sharing

つづいての報告は、千葉商科大学の内山大河さん、田中信一郎准教授の2名により行なわれました。 

千葉商科大学は、日本ではじめて電力での「自然エネルギー100%」を達成した大学として注目を集めています。また、2020年度中にはガスを含む全てのエネルギーにおいても自然エネルギーを100%にすることが目標とされています。 

こういった大学を挙げての取り組みの一環として立ち上げられ、内山さんご自身が代表を務める学生団体SONE(Student Organizationfor Natural Energy:自然エネルギー達成学生機構)の活動についてご紹介をいただきました。 

おもに千葉商科大学内の省エネ活動を行なっており、具体的には下記のような活動があげられます。  

<省エネ活動>省エネパトロール、教室の温度測定 

<啓発活動>グリーンカーテン、打ち水で涼しく大作戦 

<発信活動>学会発表、視察対応、メディア 

活動を通して、内山さんが大切にしているのは「ハートウェア」と呼ばれるもので、これは環境配慮した具体的行動につながる意識をみなが持つことだとされています。SONEの理念としても「みんなが快適で無理せず続けられる省エネを考えたい」と明記されており、持続可能な社会の実現、そのための持続可能な活動や取り組みを同時に考えていくことの重要性を感じさせます。  

発表資料:https://drive.google.com/file/d/1Zf1BM_lTDHUkTbhUeycKDXPMzjARDo9M/view?usp=sharing

田中准教授からは、おもにご自身が取り組まれている長野県での地域主導型自然エネルギー事業についてご報告いただきました。県内の地域ごとにその特性に合わせたエネルギー利用の方法を開発し、地域内での利用から、県外への売電にまでつながった事例などを紹介いただきました。エネルギーというとどうしても国単位での政策などに目がいきがちですが、じつはこういった地域での取り組みの蓄積こそが、気候変動対策の特効薬なのかもしれません。

発表資料:https://drive.google.com/file/d/1cr1SQ7AP_29uCW18fmtRARx43bAuxMVO/view?usp=sharing 

第1部の最後には、FFFTから宮崎紗矢香さんに報告をしていただきました。 

FFFTが中心となった9月20日のグローバル気候マーチは世界同時多発アクションであり、東京だけで約2,800人、日本全体では約5,000人もの参加者(主催者発表)が集いました(世界全体では約760万人とされています)。FFFTは、マーチと並行して、アクションの一環として東京都議会にCEDを求めるための請願の提出をしていました(請願提出日は9月13日)。宮崎さんはこのアクションの中心的役割を担い、請願文を執筆し、都議会や議員への働きかけにおいても積極的に取り組んでいました。 

発表では、宮崎さんがこういった取り組みをするにいたった経緯や体験談を話題にしつつ、気候変動問題への取り組みの重要性、Fridays For Futureというアクションが掲げる気候正義について話していただきました。 

宮崎さんがFridays For Futureに関心を持つようになったのは、国連気候行動サミット等でもスピーチをしていた活動家グレタ・トゥーンベリさんの活動を知ったことがきっかけでした。自分よりも若い活動家はこんな言葉を彼女に突きつけてきました「あなたたちは誰よりも自分の子供が大切だと言いながら、子供たちの目の前で彼らの未来を奪おうとしている」(2018年12月 COP24)。 

自身でもSDGsに関心を持ちながら、就活をしていた時期であったため、グレタさんの言動にショックを受けたと言います。就職活動において、面接時に見せる大人たちの気候変動問題やSDGsへの取り組みに対する冷ややかな態度や言葉に憤りを感じていた時期にグレタさんの言葉を耳にし、その活動を知り、自分自身の未来が奪われようとしている今こそ怒るべきだということを理解したと、宮崎さんは理解したと言います。 

また、宮崎さんからは、11/29に控えていた第2回グローバル気候マーチへの参加を訴えました。この日には、先述の請願が審議も予定されており、マーチの実施も審議の予定時刻13時に設定されていました。 

グレタさんからはじまり宮崎さんへとつながるこのムーブメントは、当初若者から大人たちへ」という構図でした 

しかし、9/20に行なわれた第1回グローバル気候マーチにおいては、若者にかぎらず大人たちも一緒に「気候危機」を憂い、その解決を求める「気候正義」を掲げマーチを実施していました。グレタさんが言っているように、大人たちは子供たちの未来を奪っていながら、将来の平穏を説いているのだとすれば、マーチを通して、大人たちも「気候正義」のために立ち上がり、行動し、若者たちと足並みをそろえ、気候危機という地球規模の問題解決のために、挑戦していかなければならないのでしょう。 

発表資料:https://drive.google.com/file/d/1paO_FD34Eb0Kg-px3Z10tWSuJK5q8OlN/view?usp=sharing

後日談 

11/29の議では、FFFTが求めた都議会による気候非常事態宣言に関する請願は「継続審査」となりました。これはいわゆる「棚上げ」であり、明確な回答や結論を避けるために取る政略的判断とされます。この結果だけみると、非常に残念でしたが、今回の審議は一方で「異例」なものとして周囲で語れることになります。なぜなら、ひとつの請願に対して費やされる時間は通常5〜10分程度とされていましたが、この審議ではそれが合計で1時間30分以上の長丁場となっていたからです。審議を担当する各委員は会派ごとに気候変動問題、気候非常事態宣言への考えや、結論に対する理由づけを行なっており(審議の模様はこちらから視聴できます)、請願提出者に対するある種の誠意を見せていたのかもしれません。 

第2部

後半は、登壇者たちによるパネルディスカッションを予定していましたが、会場内の参加者からの質問に登壇者が答えるような形をとり、よりリラックスした時間となりました。 

詳細については、下記より録画を閲覧できますので、ご興味のある方はご確認くださいませ。 

まとめ 

セミナー当時もCEDに対する関心かったわけではありませんが、会場を埋めつくほどの来客となり、立ち見もおられました。そのなかには、嬉しいことに若い人の姿も多く、気候変動問題は若者たちに強い関心を呼び起こしているということを改めて実感しました 

長年、多くの市民やNPOが問題提起をしてきた気候変動問題ですが、パリ協定が2020年にはついに実施段階に入り、各国が曲がりなりにも気候変動対策のための取り組みをせざるを得ない状況がやってきました。もちろん、各国が提出している数値目標では、パリ協定の目指す平均気温上昇2度未満の達成には不十分です 

しかし、FFFTのように自分たちの未来を自分たちで守るために立ち上がった若者たちがいることはひとつの僥倖ではないでしょうか。彼らの声は大人たちだけの社会を変えつつあります。気候変動はもうすでに後がないほどに深刻な状況にありますが、大人たちは、この若者たちの勇気にどう答えていくのでしょうか 

これからもA SEED JAPANはその動向を青年団体の立場から注視していきたいと思います。 

 

このセミナーは、地球環境基金の助成を受けて開催しました。 

2020-01-28