A SEED JAPAN流ボランティアコーディネートの特徴

1.単なるイベントのためのボランティアではなく、思想的にしっかりとした活動母体がある 

第一章で紹介したとおり、A SEED JAPAN・環境対策事業部のボランティア活動は野外で行われるイベント、フェスティバルにおけるボランティア活動である。もし、私たちがイベントだけのボランティア活動を行っていたら今のような成果は得られていないであろう。企業やボランティアとの対等な関係や観客参加型の企画を打ってこれたのはA SEED JAPANが環境団体としてしっかりとした活動を持っているからだ。単なるイベントのボランティアではなく、社会変革を担う青年を育て、長期的な戦略を視野に入れている。

また、様々な社会問題、とりわけ環境問題に取り組むときに、問題の症状に対して対症療法的な活動を行うのではなく、問題の根本的な原因を探り、その原因の解決に努めるという、母体組織の方針がある。又、国連などの国際会議への参加や発言、そして世界の青年と連帯する非暴力直接行動など国際的な運動を背景に、より持続可能で、対等な人間関係がある社会を視野に根本的な原因の解決を大切にしている。より斬新で画期的な企画を立案してこれた背景には、10年の歴史とA SEED JAPANの使命、理念がある。そして同じ志を持つ多くの仲間がいたからに他ならない。

2.単なる真面目な活動団体のボランティアではなく、イベントという楽しみがある(ずばり「楽しく」「カッコイイ」ボランティアである)

活動自体の姿勢や取り組みは至って「まじめ」かもしれない。しかし、私たちが活動の場に設定しているのは「楽しい」イベントという場だ。私たちの主張や企画は大変真面目で、決して対症療法的なことではない。会場が汚いからボランティアでごみを拾うという「他人がすべきことを」代わりにやって上げるような対症療法は行っていない。「代わりにやってあげない」をポリシーに当たり前の主張をしている。そんな中から生まれてきたのが「自分のことは、自分でできる」キャンペーンだ。

環境団体などが主張することがあまりに真面目すぎるために、多くの人々に受け入れられない、ということがよくある。主張はまじめで結構だが、それを伝える手法には工夫が必要だ。主張することに意味があるのではなく、その主張を社会に届けてはじめて意味がでてくるのである。社会に届くと言うことは、その情報や主張を受け入れる側が理解するように、理解しやすいように加工し、工夫するのが大切だ。私たちは、イベント、特に音楽イベントという「楽しい」場をこのまじめな主張をする場に選び、様々仕掛けや協力を得て、実施している。

3.成果が見えやすい、絵になる

この活動の特徴のひとつに「成果が見えやすい、絵になる」という点がある。

ボランティア活動で重要なことは、ボランティア活動に参加する人が、ボランティア活動を通じて何に満足し、何を得るかということだ。もし、ボランティアをすることの意味や成果を、ボランティアに伝えられないとしたら、ボランティア活動は単なる無償の労働とになってしまうのではないだろうか。A SEED JAPANでは、ボランティアが活動した成果を、はっきりとボランティア自身にも、主催者にも示していくようにしている。たまたま野外におけるコンサートでの環境対策というのが派手だというだけではなく、さまざまな手法を通してボランティア活動の成果を見えやすくしている。

例えば、回収したペットボトルを透明なポリ袋にいれて、山のように積み上げていく。初日の午前中はたいして目立たないものであるが、時間がたつにつれ、その山が大きくなっていく。その大きさを見るだけで、自分たちが「これだけやったんだ」という成果を確認することができるわけだ。普通は、「ごみは隠すもの」と考えるところだが、これは資源。あえて大きくみせ、コンサートが行われているステージからも見えるように積み上げていく。ときおり、アーティストから励ましの言葉をもらったりもする。これはボランティアにとっても励みになるのだ。

また、活動が一段落したところで、ボランティアが回収・分別化した資源の量を、はっきりと数値化したり、金銭的に換算して公表することをしているし、リサイクルをすることで、どれほどの環境負荷が低減するのかということを説明するようにしている。

「ボランティアがやった活動はこれだけの意味があるんだ」ということを社会化しているわけだ。絵になるという意味では、ボランティアの格好についても気にかけている。こそこそと隠れてボランティアをするのではなく、お揃いのかっこいいTシャツを全員が身につけることで、自然と会場内でのアピールとなっていく。元気のいい若いボランティアが、資源を回収して歩くこと自体を「かっこいい」活動として演出することにより、「私もやってみたい」という気軽なノリで参加できるようにしている。また、かっこいいと自然とマスコミにとりあげられやすくなる。これもまた、成果を社会化していくことになるのだ。

4.ボランティアが若い

ボランティアの年齢が若いということも私たちの活動の特徴だ。20代前半の大学生やフリーターが多いが、若くは高校生で16才から、30才ちかい人もいる。学生、主婦、シニアは「ボランティアの3大市場」などといわれるが、まさにその学生・青年層が中心となっている。青年はなんといっても、元気がある。素直だし、妙にへりくだったりすることもない。ボランティアを苦行としてとらえるのではなく、いっしょに楽しみながら活動をすすめることができている。

また、環境問題という側面から考えると、青年層は、これからも地球の上で暮らしていく世代であり、今、引き起こされている環境破壊の影響を直接受けて生きていく世代なのだ。その世代自らが、環境問題の解決に取り組んでいくことこそが、求められている。旧来の考え方やしがらみをとっぱらい、素直で元気な若者が社会を変えていくスタート地点としての活動機会をA SEED JAPANは提供している。

ボランティアコーディネーターも若い

A SEED JAPANのボランティアコーディネーターはボランティアと同じ年齢層の青年が中心である。下は18才の大学生から30代の社会人がコーディネートを担っている。私たちのコーディネーターはボランティアと同じ目線を持ち、共に活動を作るパートナーだ。ボランティアコーディネートにはそれなりの技術がいる。熟練者だからこそ技術があるのではなく、本人のやる気、プライドで技術力を上げ、徹底した情報共有と民主的な意志決定で活動を作っている。私たちの活動を体験したボランティアが次にはコーディネーターとなっていく仕組みを絶えず作っているのも一つの特徴かもしれない。

5.多くは初めてのボランティア体験、なのに一定のクオリティーを保っている

私たちの活動に参加する若者の多くは、いわゆる「ボランティアおたく」ではない。むしろ「ボランティアなんてはじめてです」という人の方が多い。だからといって、活動のクオリティーを下げるわけにはいかない。コンサートにはお金を払っている来場者もいるし、そのイベントのクオリティーを維持するための多くのスタッフがいる。ボランティアがやりたいことを、やれるだけやればよいという訳にはいかないのだ。ごみ箱があふれるわけにはいかないし、いいかげんな分別をするわけにはいかない。ボランティアといえどもスタッフTシャツを着て、来場者と対峙している以上は、それなりの態度で来場者と向かい合う必要がある。もし「やっぱりボランティアだから質はよくないよね」とか「あのボランティアの態度が悪かった」という話でトラブルに発展してしまったら、今後の活動にも支障がでてくるのだ。

A SEED JAPANのボランティア活動の特徴は、若くて経験の少ないボランティアが参加していながら、このようなクオリティーを維持し続けている点にある。クオリティーを維持するに、ボランティア説明会への参加を必須としていること、経験豊富なボランティアをリーダーにしたチーム制を引くことなどで、クオリティーを維持している。(説明会やチーム制の詳細については次章でふれる)

6.ボランティアを大切にする(移動、宿泊、休憩、つらい思いをさせない)

私たちはボランティアを大切にしている。イベントの主催企業や行政が重要なパートナーなのはもちろんだが、活動自体のパートナーはボランティアだと考えている。ボランティアを無償の労働力にしないためにも最高の待遇を約束している。ボランティアが活動に参加する為には、交通費がかかる。都内で行われる活動の場合は、最低限の交通費の一定額を支払うようにしている。会場が遠方の場合は、首都圏(中心部)からボランティア専用のバスをチャーターし、会場までの移動費をボランティアには負担させていない。イベントが複数日にかかり、且つ遠方で開催される場合は、会場付近で宿泊することが必要になってくる。毎年苗場スキー場で開催しているフジロックフェスティバルでは、最低2泊の宿泊が必要になる。この宿泊費も主催者に掛け合い、負担していただいているアルバイトのスタッフならば当然このような交通費や宿泊費は主催者から支払われる。ボランティアといえども、イベント会場ではスタッフとして活動してもらうためこのようにしている。

アルバイトならば労働の対価として賃金が払われる代わりにコンサートなどを見る時間はほとんどないし、楽しみながら仕事をする事に重きはおかれない。私たちのボランティアには賃金が払われない。その代わりに「楽しさ」がついてくる。ボランティアの活動はシフト制を導入しており、1日約8時間の活動を行って頂くが、必ずコンサートを楽しむ時間(自由時間)を設けている。一般のお客さんと同じ目線でコンサートを楽しむことができる。活動時間中もボランティアの安全、体調には最善の注意を払い、疲れたら休むことを奨励している。時には炎天下での活動が数時間続いたら、悪天候の中でも活動を行うためにボランティアコーディネーター、リーダーには10人一組のチームで体調をチェックするのではなく、あくまでも個人個人の体調を把握し、疲れたら休めるように心がけている。雨の中でも活動は行うが、雨が降ったら一旦活動を中止し、本部テントに集合し、各自雨具の確認を行い、持参していないボランティアには、当団体の雨具を貸し出し、チームメンバー全員の意志を確認してから活動を再開させるようにしている。

ボランティアが活動しやすいように休憩時間、食事時間、雨天の時などボランティア全員が収容できるボランティア専用の休憩テントを用意している。活動時間中には必ずすべての食事を提供している。

炎天下での作業に欠かせないのが水の供給である。広い会場内にボランティアの拠点となるテントを数カ所に配置し、必ず冷たい水を用意している。また、活動時間中にテントに戻って休めないときには、車で冷水タンクを活動場所まで運び、日陰で休みを取りなが、冷たい水を供給するように勤めている。

活動がハードな分だけ、ボランティアには最高の待遇を持ってもてなす、それが私たちの活動の姿勢である。

7.個人参加のボランティアに寂しい思いをさせない

ボランティアを多人数集めると仲間同士で申し込んでくる人々と個人で申し込んでくる人々に分かれる。ボランティア申込用紙に代表者名を記入していただければ仲間同士で活動が当日できるように配慮している。グループや仲間同士で申し込んでくる人々は同じ班にしてあげれば、楽しんで活動を行ってくれる。個人で申し込んでくる人々に寂しい思いをさせない用に細心の注意を払っている。私たちの当日の活動はすべて約10人一組のチームで行うので、このチーム編成を行う際に構成メンバー一人一人の参加経験、個人・団体での申し込みなどを配慮しながら決めていく。まず、個人参加者はできるだけ個人参加者同士のチームを編成し、性別も偏らないように男女比まで気を配る、そして活動経験のあるリーダーを付けることで活動への不安を取り除くようにしている。そして、別に記してあるとおりチームで活動することにより、仲間意識の向上などに努めている。当日、イベント会場に集まった後チームの顔合わせを行い、時間をとって、チーム内の自己紹介、連帯を深めるゲームなどを行う。

そして、あとはコアスタッフが個人参加の多いチームでみんながうち解けて活動しているかに注意を払う、ようにしている。

8.主催者の理解を得て、きちんと機材や経費を頂いている

簡単にいってしまえば主催企業からの環境対策事業の業務委託である。イベントの主催者は私たちA SEED JAPANに会場の環境対策活動に対して経費を支払っている。時には足りない分を自力で資金調達する場合もある。活動の目的は会場の自然環境を破壊せずに、ボランティアという力でごみの散乱を防ぐことだ。その目的の達成が、会場のピースな雰囲気をも創り出している。

この業務を遂行するのに多くの経費が必要である。「ボランティア活動」といっても普段アルバイトの部分がボランティアに変わるだけで、ボランティアをコーディネートするスタッフや事前の企画制作を行うスタッフの人件費、会場で使用する様々な備品や機材のレンタル費、ボランティア用のチャーターバス、宿泊、食事などの経費を合計すると百万円~数百万円のお金が必要であり、その多くをイベントの主催者(企業や行政)から委託されてこの活動は成り立っている。もちろん、営利が目的ではない市民団体が主催で趣旨に賛同できれば、人件費も取らずに、且つ独自に資金調達して取り組むこともある。

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