特別天然記念物・イリオモテヤマネコなど、世界的に貴重な大自然を残す沖縄県竹富町の西表島(いりおもてじま)において、2003年3月から、大規模なリゾートホテル建設が始まった。14ヘクタールにおよびリゾート開発は、人口2000人の島に劇的な変化をもたらす。環境・地域社会への配慮をめぐって、推進派・反対派の間で激しい攻防が繰り広げられている。地元反対派住民が2002年10月に設立した「西表の未来を創る会」
は、「自然を愛するすべての人」に建設差し止め訴訟への参加・支援を呼びかけている。これは豊かな自然が奪われることに精神的な苦痛を感じるすべての人が、「人格権の侵害である」と主張する前例のない訴訟と言われている。
この問題には、何百年も自然と共存して生活を営んできた島の「地域開発における民主主義的手続き」という側面
と、不十分な環境保護法下における「企業の自主的な環境・社会配慮」という側面
の二つの問題がある。前者は地元住民が解決すべき問題だが、後者は企業のサービスを受ける可能性がある全ての人が考えるべき問題である。西表リゾート問題について、地元で問題を見てきたA
SEED JAPAN会員が「西表の未来を創る会」代表の石垣金星氏行ったインタビューを紹介する。
(聞き手・村上真理子、編集・鈴木亮)
【石垣金星氏プロフィール】
昭和年に西表島祖内で生まれる。首里高校卒業後、順天堂大学へ進学。器械体操で活躍し、教員となる。沖縄の復帰運動をきっかけに沖縄へ戻り、その後西表へ。以来、地域発展のための様々な取り組みを行う。西表エコツーリズム協会会長。
【村上】
まず、これまでの島の開発に対して、どのような活動を行ってきたのかお話ください。
【石垣氏】
沖縄の本土復帰をきっかけに、故郷に恩返しをしようと、教員として沖縄に戻った。復帰の混乱時を狙って、土地を外部の企業がすべて買い占めていた。今まで守ってきた森や浜が、一坪たばこ一箱の値段、36円くらいで売られたり、骨董品や焼き物の入っている古いお墓が全部暴かれたりと、非常に悪質な業者がはびこっていた。それを見て、とにもかくにも帰らなければと思った。で、転勤願いを出して、72年に戻ってきた。セゾングループなどの業者が、地元の人たちは「神様が住んでいるところ」として守っていた土地に観光施設(太陽の村)を建てた。私たちは看板を立てたり、地主に働きかけたりして、土地買占めに対して売らないように運動した。当時の役場も誘致していた。島の年寄りは復帰したら土地は取り上げられるというデマが流れて、それを利用して10ドルか20ドルを先に払って土地を買い占めて、残りは後から払うと言って騙して、払わないということも発生した。復帰のときは大混乱だった。
【村上】
今回の「トドゥマリの浜」のリゾート開発反対運動では、なぜ裁判という方法を選ばれたのでしょうか?
【石垣氏】
法律の整備が遅れていて、今ある法律は開発するための法律。環境を守るための法律というのは本当に遅れている。県はエコツーリズムを推進する一方で、リゾート開発の許可を出すという矛盾した形になっている。今まで話し合いをしようと投げかけてきたが、全く聞く耳を持たない。しかし工事は進んでゆく。現在工事を一旦止めて、話し合いをしましょうということで、仮処分を求めている。日本生態系学会もちゃんとアセスを見直したらどうかという要請文を出したが、それも無視。結局、一切興味を持たない。それでは、全面
的に工事差止めをするしかない、という結論に至った。「人格権を主張して工事に反対する」というのは弁護士曰く、日本で初めてのことになるだろうとのこと。もし、勝つことになって、地域開発やリゾート開発自体が見直すことになれば、大きなきっかけになるだろう。
【村上】
短期的な経済効果を諸手を挙げて賛成する人が多数を占めているのが現状だと思いますが、西表島の未来について、発展のビジョンを話していただけますか?
【石垣氏】
「汝立処深堀其処甘泉有(汝立つところ深く掘れ、其のところ甘く泉あり)」という言葉がある。西表島に大規模リゾートは要らない。伝統的な産業としての農業と工芸、そして豊かな自然を活かしたエコツーリズムで十分やってゆける。復帰当時のリゾート反対運動の中から西表エコツーリズム協会が生まれた。東京の沖縄協会と協力して、79〜82年の三年間に、北海道から沖縄までの地域センターと「地域作り」について話し合った。東京の友人に声をかけて、東京で西表研究会を作ったり、プロに委託したりしてヒアリング調査や問題分析をおこない、何を解決すればよいのかを考え、フローチャートでまとめた。西表では農業を土台にして、それを強力にしていく。島の90%は国有林のため、山を広げることができないが、いち早くから有機稲作にも取り組んでいる。そして自然を生かした地元主導の観光としてエコツーリズムを推進するという結論に達した。また八重山地方の女性の仕事としての織物づくりも、昭和初期に三井物産が始めた炭鉱によって廃れていったが、これも自然を活かした価値のあるものとして復活させた。
【村上】
これからの課題は何でしょうか?
【石垣氏】
推進側(県・企業)に対抗できるよう、運動を広げる。そのために、裁判の原告を広く国内外に呼びかける。西表を世界遺産に、という話もあるが、響きはよいが、いろんな課題があるから一概には言えない。大事にしたいという理念はわかる。島に住んでいるも人にとってみれば、どうなのかは全然わからない。勉強はしなくてはとは思っている。一番大事なことは世界遺産が島に住む人にとってどうなのか。慎重に、島に住んでいる人も、子供にとっても将来的に世界遺産にした方がよいのかどうかだ。
【村上】
島の外部の人に呼びかけたいことはなんですか?
【石垣氏】
地元の若い人たちも、みんな一応考えて手を上げようとしているが、実際に上げるとこまではいかない。なかなか難しい。外部の若い人をはじめ、全ての人には、西表島に来てみて、実際に感じてほしい。西表島が、かけがえのない宝であること。エコツーリズムの理念を理解して、少人数で自然に対して学びながら来て欲しい。
【村上】
ありがとうございました。
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