■新聞社からNGOへ
安在さんは、中学生の頃から「環境問題と経済の関係」に興味を持ち、やがて「成長をコントロールできる経済」を模索するようになったという。大学の経済学部卒業後、「環境情報の普及」などを目指して新聞社に入社、「経済面
に環境問題を」と記事を書き続けた。しかし、NGOの中では重要な情報が豊富にあるのに「新聞では同じ記事は二度書けない」、そして新聞社の中では「記者一人でできることは限られている」というジレンマを感じるようになった。そして「(情報を交換できる)うつわが作りたい」との想いから退社を決意した。その後「アースデイ」の活動にボランティアで関わるうちに事務局で働くようになった。5年間「アースデイ」にスタッフとして関わった後、2001年からはFoE
Japan事務局長として多忙な日々を送っている。
■NGOで働くということ
NGOで働くことの長所について伺うと、間髪入れずに「100%好きなことができること」という答えが返ってきた。経済部の記者だった頃は、会社内部で環境問題を話しても、なかなか理解してもらえなかったそうだ。景気の記事など、意思に反した記事を書かざるを得ないことも多かったという。そんな過去があるからこそ、現在のNGO事務局長としての多忙な日々を楽しめるのだろう。
NGOで働くことの短所について伺うと、少し間を置いてから、「収入かなあ」と仰っていた。
「でも給料だけでみたら損してるかもしれないけど、それ(給料)より得るものは多いと思う。NGOの仕事は社会を変えること。多くの人と一緒にそんな仕事に携われるって、すごいよ」
■NGOの抱える課題
また安在さんは、NGOの課題について、現場で働く人ならではの鋭い指摘をして下さった。それは「想いを共有できる仲間に囲まれている」居心地のいい状況から生まれる「わかりにくさ」だという。何かの行動を起こすとき、みんなが団結していることはもちろん大切だが、活動に忙殺されると外の世界との接点を見失いがちになる。そうすると、外への情報発信が難しくなり、活動が専門家向けの、内向きのものになってしまう可能性があるという。専門性があっても、情報発信能力が無ければ、多くの人に問題を伝えることはできない。
「NGOの提案が、多くの市民の支持があって始めて政策に影響を与えることができる」と安在さんは仰っていた。僕はこのお話を伺って、「この課題は、専門家でない市民が活動に関わることで克服されるのではないだろうか」と思った。普通
の市民がNGO活動に参加することで、この課題を超えることができたら、NGOは今の何倍もの力を発揮できるだろう。NGOとは、様々な市民が自分なりの形で貢献することができる場所なのかもしれない。
■働くということ
「安在さんにとって『働く』とは何ですか」と尋ねると、笑顔で「自分がやっていて楽しいことだよ」と答えてくれた。そういえばインタビューの間、安在さんの顔から笑顔が絶えることはなかったように思う。ずっと持ち続けていた「伝えたい」という想いを新聞、イベント、組織という様々な場所で実現してきたからこその笑顔なのだろう。
「歴史を変える」という熱い想いを抱きながらも、焦らずに進む安在さん。彼の姿は、「働く」ということが「食べることの手段」では終わらない面
白さを持っていることを、改めて教えてくれた。
2002年春
聞き手・文:高木祐輔
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