第1 有機農業の推進に関する基本的な事項

1 農業者が有機農業に容易に従事することができるようにするための取組の推進

化学肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本とする有機農業は、現状では、病害虫の発生等に加え、多くの場合、労働時間や生産コストの大幅な増加を伴う。

こうした有機農業の抱える課題を克服し、農業者が容易に有機農業に従事できるようにすることが重要であることから、有機農業に関する技術体系を確立・普及するための取組を強化するとともに、有機農業の取組を対象とする各種支援施策を充実し、その積極的な活用を図ることが必要である。

2 農業者その他の関係者が有機農業により生産される農産物の生産、流通又は販売に積極的に取り組むことができるようにするための取組の推進

有機農業への取組は未だ少ないものの、有機農業により生産される農産物に対する潜在的な需要はあると考えられることから、農業者が有機農業による経営を安定して展開できるよう需要を的確に捉えた販路の開拓に取り組むことが重要である。

このため、有機農業の取組を対象とする各種支援施策を充実し、その積極的な活用を図ることにより有機農業による農産物の生産を更に増加させていくとともに、有機農業に取り組む農業者(以下「有機農業者」という。)や農業団体等と、農産物の流通業者、販売業者又は実需者とが連携・協力し、有機農業により生産される農産物の流通、販売又は利用の拡大に取り組むことが必要である。

3 消費者が容易に有機農業で生産される農産物を入手できるようにするための取組の推進

消費者の安全かつ良質な農産物に対する需要が増大している中、有機農業により生産される農産物の生産・流通量を拡大し、当該農産物を消費者が容易に入手できるようにすることが重要である。

このため、有機農業により生産される農産物の生産の拡大に努めるとともに、有機農業者、流通業者、販売業者、実需者及び消費者の間で、その生産、流通、販売及び消費に関する情報が受発信されることが必要である。

さらに、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(昭和25年法律第175号。以下「JAS法」という。)に基づく有機農産物等についての適正な表示を推進することにより、消費者の有機農産物等に対する信頼を確保することが重要である。

4 有機農業者その他の関係者と消費者との連携の促進

有機農業の推進に当たっては、消費者の有機農業に対する理解の増進が重要であることから、食育、地産地消、農業体験学習、都市農村交流等の取組を通じて、消費者と有機農業者その他の関係者との交流・連携の促進を図ることが必要である。

5 農業者その他の関係者の自主性の尊重

有機農業の推進に当たっては、我が国における有機農業が、これまで、専ら、有機農業を志向する一部の農業者その他の関係者の自主的な活動によって支えられてきたことを考慮し、これらの者及び今後有機農業を行おうとする者の意見が十分に反映されるようにすることが重要である。

また、有機農業に関する技術体系が十分に確立されておらず、有機農業による農産物の生産も未だ少ない現状において、有機農業の推進に当たっては、地域の実情、農業者その他の関係者の意向への配慮がないままに、農業者その他の関係者に対し、有機農業による農産物の生産、流通又は販売を画一的に進めることのないよう留意する必要がある。

第2 有機農業の推進及び普及の目標に関する事項

1 目標の設定の考え方

農業者が容易に有機農業に従事できるようにすること、農業者その他の関係者が有機農業による農産物の生産、流通又は販売に積極的に取り組めるようにすることなど、有機農業推進法に定める基本理念に即し、有機農業の推進及び普及に当たっての国、地方公共団体、農業者その他の関係者及び消費者の共通の目標を掲げることとする。

特に、現状では、有機農業に関する技術体系の確立とともに、国及び地方公共団体における有機農業の推進に向けた体制の整備等が重要な課題であることを考慮し、こうした農業者が有機農業に積極的に取り組めるようにするための条件整備に重点を置いて目標を設定するものとする。

2 有機農業の推進及び普及の目標

(1)有機農業に関する技術の開発・体系化

有機農業に農業者が容易に従事できるようにするためには、現状では、病害虫等による品質や収量の低下が起こりやすいなどの課題を有する有機農業について、こうした課題を克服した技術を確立することが重要である。

このため、おおむね平成23年度までに、試験研究独立行政法人、都道府県、大学、有機農業者、民間団体等で開発され、実践されている様々な技術を適切に組み合わせること等により、安定的に品質・収量を確保できる有機農業の技術体系の確立を目指す。

(2)有機農業に関する普及指導の強化

農業者等が有機農業に取り組めるようにするためには、地域で有機農業に関する技術及び知識の指導を受けることができる環境を整えていくことが重要である。

このため、おおむね平成23年度までに、国や都道府県の研修を活用するとともに、先進的な有機農業者との連携を強化しつつ、意欲的な農業者への支援を行うことができるよう都道府県の普及指導センターや試験研究機関等に普及指導員を配置するなど、普及指導員による有機農業の指導体制を整備した都道府県の割合を100%とすることを目指す。

(3)有機農業に対する消費者の理解の増進

有機農業については、消費者の理解と協力を得ながら推進することが重要であるが、有機農業に対する消費者の理解は未だ十分でない。

このため、有機農業に対する消費者の理解の増進を目標とする。具体的には、モニター調査等を通じて把握する、有機農業が化学肥料及び農薬を使用しないこと等を基本とする環境と調和の取れた農業であることを知る消費者の割合について、おおむね平成23年度までに50%以上とすることを目指す。

(4)都道府県における推進計画の策定と有機農業の推進体制の強化

現状では未だ取組の少ない有機農業を推進及び普及するためには、全国各地において、それぞれ農業者その他の関係者及び消費者の理解と協力を得ながら基本方針に基づく取組を進める必要がある。また、有機農業推進法第7条第1項において、都道府県は、基本方針に即して有機農業の推進に関する施策についての計画(以下「推進計画」という。)を定めるよう努めることとされている。

このため、推進計画を策定・実施している都道府県の割合をおおむね平成23年度までに100%とすることを目指す。

併せて、全国各地において基本方針、推進計画に基づく取組を進めるため、有機農業者や有機農業の推進に取り組む民間の団体等を始め、流通業者、販売業者、実需者、消費者、行政部局、農業団体等で構成する有機農業の推進を目的とする体制が整備されている都道府県及び市町村の割合を、おおむね平成23年度までに都道府県にあっては100%、市町村にあっては50%以上とすることを目指す。

第3 有機農業の推進に関する施策に関する事項

1 有機農業者等の支援

(1)有機農業の取組に対する支援

国及び地方公共団体は、有機農業に必要な技術の導入を支援するため、たい肥等の生産・流通施設等の共同利用機械・施設の整備の支援に努めるとともに、持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)第4条第1項の規定に基づく持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画(以下「導入計画」という。)の策定を有機農業者等に積極的に働きかけ、導入計画の策定及び実施に必要な指導及び助言、特例措置を伴う農業改良資金の貸付け等による支援に努める。

また、平成19年度から実施する農地・水・環境保全向上対策を活用し、有機農業を含む環境負荷を大幅に低減する地域でまとまった先進的な取組に対して、当該取組を行う農業者にも配分可能な交付金等を交付することにより、有機農業者の支援に努める。

さらに、有機農業による地域農業の振興を全国に展開していくため、国は、そのモデルとなり得る有機農業を核とした地域振興計画を策定した地域に対し、当該地域振興計画の達成に必要な支援を行うとともに、有機農業者、地方公共団体、農業団体、有機農業の推進に取り組む民間の団体等の協力を得て、地域における有機農業に関する技術の実証及び習得の支援を行う。

(2)新たに有機農業を行おうとする者の支援

国及び地方公共団体は、関係団体と連携・協力して、有機農業を行おうとする新規就農希望者が円滑に就農できるよう、全国及び都道府県における就農相談、道府県農業大学校や就農準備校、有機農業の推進に取り組む民間の団体等における研修教育の推進、就農支援資金の貸付けによる支援等に努める。

また、有機農業を行おうとする新規就農希望者に対して適切な指導及び助言が行われるよう、国及び都道府県は、有機農業者や有機農業の推進に取り組む民間の団体等と連携・協力して、国、地方公共団体及び農業団体の職員等を対象に、必要な情報の提供を行うとともに、有機農業の意義や実態、有機農業の取組を支援できる各種施策に関する知識、有機農業に関する技術等を習得させるための研修の実施に努める。

(3)有機農業により生産される農産物の流通・販売面の支援

国及び地方公共団体は、農業団体等と連携・協力して、有機農業により生産される農産物について、その特色を活かした販売や消費者・実需者のニーズを反映した生産を実現するため、有機農業者に対し、JAS法に基づく有機農産物の日本農林規格(平成17年10月27日農林水産省告示第1605号)や生産情報公表農産物の日本農林規格(平成17年6月30日農林水産省告示第1163号)等の活用、農産物の生産・出荷情報を流通業者、販売業者、実需者及び消費者に広く提供するネットカタログ等を利用した情報の受発信を積極的に働きかける。

また、直売施設やインターネットを利用した販売活動等に取り組む有機農業者に対し、消費者や実需者との情報の受発信を積極的に働きかける。

さらに、農産物直売施設等の整備の支援に努めるとともに、相当程度の量でまとまって有機農業により生産される農産物を確保できる場合は、関係団体と連携・協力して、流通業者、販売業者又は食品製造業者や外食業者等の実需者と、有機農業者、農業団体等との意見交換や商談の場の設定、卸売市場流通における第三者販売や直荷引きの仕組みの適用等を通じ、有機農業者や農業団体等と、流通業者、販売業者や実需者との橋渡しに努める。

2 技術開発等の促進

(1)有機農業に関する技術の研究開発の促進

国及び都道府県は協力して、有機農業者を始め民間の団体等で開発、実践されている様々な技術を探索するとともに、これらの技術を適切に組み合わせること等により、品質や収量を安定的に確保できる有機農業の技術体系を確立するため、当該技術の導入効果、適用条件を把握するための実証試験等に取り組むよう努める。

また、国は、有機農業の実態を踏まえ、既に取り組まれている有機農業に関する技術の科学的な解明や、これらを普及するために必要な技術の開発など、有機農業の推進に必要な研究課題を設定するとともに、研究開発の実施に当たっては、試験研究独立行政法人を始め、都道府県、大学、民間の試験研究機関、行政部局、有機農業者等の参画を得て、有機農業に関する研究開発の計画的かつ効果的な推進に努める。

地方公共団体においては、その立地条件に適応した有機農業に関する技術の研究開発、他の研究機関等が開発した技術を含む新たな技術を地域の農業生産の現場に適用するために必要な実証試験等に取り組むよう努める。

(2)研究開発の成果の普及の促進

国及び地方公共団体は、有機農業に関する有用な技術の研究開発の成果を普及するため、研究開発の成果に関する情報の提供に努めるとともに、都道府県の普及指導センターを中心に、地域の実情に応じ、市町村、農業団体等の地域の関係機関や、有機農業者、民間の団体等と連携・協力して、農業者への研究開発の成果の普及に努める。

また、有機農業者及び今後、有機農業を行おうとする者に対し、新たな研究開発の成果、知見に基づく効果的な指導及び助言が行われるよう、国及び都道府県は、有機農業者の協力を得て、普及指導員等に対する有機農業に関する研究開発の成果等に係る技術及び知識を習得させるための研修の内容、情報提供の充実を図るとともに、有機農業者等の技術に対するニーズを的確に把握し、それを試験研究機関における研究開発に反映させるよう努める。

3 消費者の理解と関心の増進

国及び地方公共団体は、有機農業に対する消費者の理解と関心を増進するため、有機農業者と消費者との連携を基本としつつ、インターネットの活用やシンポジウムの開催による情報の受発信、資料の提供、優良な取組を行った有機農業者の顕彰等を通じて消費者を始め、流通業者、販売業者、実需者、学校関係者等に対し、自然循環機能の増進、環境への負荷の低減、生物多様性の保全など、有機農業の有する様々な機能についての知識の普及啓発並びに有機農業による農産物の生産、流通、販売及び消費に関する情報の提供に努める。

また、民間の団体等による消費者の理解と関心を増進するための自主的な活動を促進するため、これらの者による優良な取組についての顕彰及び情報の発信に取り組むとともに、消費者に対するJAS法に基づく有機農産物等の表示ルール・検査認証制度の普及啓発に努める。

4 有機農業者と消費者の相互理解の増進

国及び地方公共団体は、有機農業者と消費者の相互理解の増進を図るため、食育や地産地消、農業体験学習、都市農村交流等の活動と連携して、地域の消費者や児童・生徒、都市住民等が地域の豊かな自然環境の下で営まれる有機農業に対する理解を深める取組の推進に努める。

また、民間の団体等による有機農業者と消費者の相互理解を増進するための自主的な活動を促進するため、これらの者による優良な取組についての顕彰及び情報の発信に努める。

5 調査の実施

国は、有機農業により生産される農産物の生産、流通、販売及び消費の動向等の基礎的な情報、有機農業に関する技術の開発・普及の動向、地域の農業との連携を含む有機農業に関する取組事例その他の有機農業の推進のために必要な情報を把握するため、地方公共団体、有機農業により生産される農産物の生産、流通又は販売に関する団体その他の有機農業の推進に取り組む民間の団体等の協力を得て、必要な調査を実施する。

6 国及び地方公共団体以外の者が行う有機農業の推進のための活動の支援

国及び地方公共団体は、有機農業の推進のための活動に自主的に取り組む民間の団体等に対し、情報の提供、指導及び助言その他の必要な支援を行うとともに、これらの者と連携・協力して有機農業の推進のための活動を効果的に展開できるよう、相談窓口を設置するなどの所要の体制の整備に努める。

また、これらの民間の団体等による自主的な活動を促進するため、優良な取組の顕彰及び情報の発信に努める。

7 国の地方公共団体に対する援助

国は、都道府県に対し、基本方針、当該都道府県における有機農業の実態等を踏まえて定める有機農業の推進の方針、当該方針に基づきおおむね5年の間に実施する施策、有機農業を推進するに当たっての関係機関・団体等との連携・協力、有機農業者等の意見の反映、推進状況の把握及び評価の方法を内容とする推進計画の策定を積極的に働きかけるともに、その策定に必要な情報の提供、指導及び助言に努める。

また、地方公共団体が行う有機農業の推進に関する施策の策定及び実施に関し、必要な指導及び助言を行うとともに、地方公共団体の職員が有機農業の意義や実態、有機農業の推進に関する施策の体系、先進的な取組事例等有機農業に関する総合的な知識を習得できる研修の実施に努める。

第4 その他有機農業の推進に関し必要な事項

1 関係機関・団体との連携・協力体制の整備

(1)国及び地方公共団体における組織内の連携体制の整備

有機農業の推進に関する施策は、有機農業による農産物の生産、流通、販売及び消費の各側面から有機農業の推進のために必要な施策を総合的に講じることとされている。これらの施策を計画的かつ一体的に推進し、施策の効果を高めるため、国は、これらの施策を担当する部局間の連携を確保する体制の整備に努める。

また、地方公共団体に対し、同様の体制を整備するよう働きかける。

(2)有機農業の推進体制の整備

有機農業の推進に当たっては、農業者その他の関係者及び消費者の理解と協力を得るとともに、有機農業者や民間の団体等が自主的に有機農業の推進のための活動を展開している中で、これらの者と積極的に連携する取組が重要である。

このため、国は、全国、地方ブロックの各段階において有機農業者や有機農業の推進に自主的に取り組む民間の団体等を始め、流通業者、販売業者、実需者、消費者、行政部局及び農業団体等で構成する有機農業の推進体制を整備し、これらの者と連携・協力して、有機農業の推進に取り組むよう努める。

また、地方公共団体に対し、同様の体制を整備するよう働きかける。

(3)有機農業に関する技術の研究開発の推進体制の整備

有機農業に関する技術の研究開発については、試験研究独立行政法人、都道府県の試験研究機関に加え、有機農業者を始めとする民間の団体等においても自主的な活動が展開されており、これらの民間の団体等と積極的に連携・協力することにより、技術の開発が効果的に行われることが期待できる。

このため、国は、全国、地方ブロックの各段階において、試験研究機関のほか、行政・普及担当部局、有機農業者、農業団体等の参画を得て、研究開発の計画的かつ効果的な推進のための意見交換、共同研究等の場の設定を図るとともに、関係する研究開発の進捗状況を一元的に把握するよう努める。

また、地方公共団体に対し、同様の体制を整備するよう働きかける。

2 有機農業者等の意見の反映

国及び地方公共団体は、有機農業の推進に関する施策の策定に当たっては、意見公募手続の実施、現地調査、有機農業者等との意見交換その他の方法により、有機農業者その他の関係者及び消費者の当該施策についての意見や考え方を積極的に把握し、これらを当該施策に反映させるよう努める。

また、国は、有機農業による農産物の生産、流通、販売及び消費の動向を常に把握し、その進捗状況に応じた施策等の検討を行う体制を整備するとともに、地方公共団体に対し、同様の体制を整備するよう働きかける。

3 基本方針の見直し

この基本方針は、有機農業推進法で示された基本理念及び有機農業の推進に関する施策の基本となる事項に従い、基本方針の策定時点での諸情勢に対応して策定したものである。

しかしながら、今後、有機農業を含めた農業を取り巻く情勢も大きく変わることが十分考えられる。また、目標の達成状況や施策の推進状況等によっても、基本方針の見直しが必要となる場合が考えられる。

このため、この基本方針については、平成19年度からおおむね5年間を対象として定めるものとするが、見直しの必要性や時期等を適時適切に検討することとする。