エコ貯金プロジェクトで作成した「社会に優しいお金の使い方」と「ライフプランの立て方」について説明した冊子、「Eco Life Guide」にて紹介した金融機関・団体の方々に個別にインタビューを行い、その内容をウェブサイトで紹介する企画の第3回です!
(冊子の詳細はこちら→http://www.aseed.org/2018/06/6172/)
今回は、東京CPB(コミュニティーパワーバンク)理事長の植田さんへインタビューをいたしました。東京CPBは、「まちが元気になる金融」を目指して作られた、市民による市民のための非営利金融(NPOバンク)です。今回は植田さんに伺ったお話をまとめていきたいと思います!
東京CPB理事長の植田さん(中央)、とても暖かく迎えてくださいました。
東京CPBの成り立ち
A SEED JAPANスタッフ(以下ASJ):なぜ東京CPBという名前にしたのですか?
植田さん:立ち上げ当時、女性や若者、NPO、市民事業団体が事業を始めるためにお金が必要な時、メガバンクのような既存の金融機関は、担保も持っていないような相手にはお金を貸してくれなかった時代でした。けれど担保、資産はなくても事業計画がきちんと立てられ意義のある事業をしたいという人たちに、地域として資金を提供することのできる非営利金融を立ち上げたいというところから、私たちの団体は始まりました。地域で新しいものが生まれ、また地域に還元される、という循環を作り、コミュニティを元気にするという意味で、コミュニティパワーバンクという名前にしています。地域の捉え方にもよりますが、当団体は今の所東京都近辺という地域基盤のもとで活動しています。
ASJ:植田さんが東京CPBで活動を始めたきっかけを教えてください。
植田さん:親、兄弟皆が銀行員で、自分も大学を出て当たり前のように金融機関に勤め始めました。しかしそもそも女性は、数年勤めたら結婚して仕事を辞めるという考えが一般的な時代で私もそうでしたね。実際働く場でも、業務では億単位のお金が動くため、自分にとっては関係のないお金のように感じていました。転勤が多かったため、地域に根付く、という経験が薄かったのですが、30代に入ってからようやく腰を下ろすことができ、生活クラブ生協に入ってから、食べ物がどこからきてどう私たちのもとに運ばれるか、という横の関係を勉強する機会を得たことをきっかけに社会のしくみに関心を持ちました。生活クラブが「21世紀型地域機能づくり構想」という、21世紀を自分たちの力でどのように構築すれば自分たちが住みやすい地域が作れるか、ということについて考え始め、その中で、地域のための金融があっても良いのではないかという考えに至ったことがきっかけです。
ASJ:お金のことは毎日欠かさず考えるのに、お金の行き先が見えにくいなと思います。植田さんはなぜだと思いますか?
植田さん:CPBと直接関係があるわけではないですが、情報は操作されるものだと思っています。自分の生活に満足していると、身の回り以外の世界を見に行こうとなかなか思えないのかもしれません。関心をもてば方法はありますよね。昔に比べれば、スマホなどで表面的に調べることは楽になりました。ですが、自ら行ってみないとわからないことが沢山あります。実際に融資先に行くと、その事業体が地域やお客さんにどのように思われているかが良く分かります。
ASJ:融資先はどのように決めているのでしょうか?CPBさんから自発的に融資先を探すのか、先方から依頼が来るのでしょうか?
植田さん:基本的には生活クラブ始め連携団体またはホームページから問い合わせがきます。もちろん実現性の薄い事業計画を立てている団体や、個人の生活資金のお願いはお断りしています。最初に借り入れ申込書を書いていただき、事業計画書、3年間分の財務諸表や理事会等の資料を見てき、現場を訪ねるなどやりとりをしてからCPB内の役員審査および市民審査委員会にかけて最終的に理事会で融資するかどうか判断していきます。大体3ヶ月近くの時間をかけて、こちらも、団体さま自身も客観視できる期間を取っています。また融資後6ヶ月目にはCPB側から融資先を訪ねています。「志金循環ツアー」と称して、CPBの会員さんが融資先を見るためのツアーを設けています。
ASJ:密な関係がずっと続くように工夫しているのですね。
植田さん:そうですね。前提条件としてCPBが融資をする方達にはCPBの会員になってもらうという条件があります。そうすることで自分たちのお金が地域のお金に役立っているという循環とつながりの意識を大事にしています。
ASJ:銀行には出来ない繫がりを保っていらっしゃるのですね。
植田さん:「この顔の、この人だからこそ貸している」、という思いが、コミュニティパワーバンクだからこそ出来ることですね。
非営利金融ならではの魅力に興味を惹かれます!
ASJ:非営利団体の経営は非常に難しいと思うのですが、融資先が倒産してしまうようなことはあるのでしょうか?融資先を助けるために、融資以外のコンサルやマッチング系のサービスはやっておられるのでしょうか?
植田さん:現在(2018年)で15年目になりますが、始まって数年の時に1件だけ返せなくなる事例がありました。しかしこの1件が融資条件の厳格化などにも繫がり、CPBにとって非常に教訓になりました。融資をするリスクと市民事業を応援したいという気持ちのせめぎ合いでやっています。融資先の支援としては、例えば会計の専門家を紹介することはあります。CPBはお金を融資していますが、メンバーが皆金融の全てを知っているわけではないので、場合によっては専門家の力を借りることも必要です。数字や書類で融資先を正しく判断したいという気持ちと、心で応援したいという気持ちのバランスがとても難しいですね。本当の意味で団体のためになるように、嫌われてもいいから厳しいことを言うことも多々あります。
顔が見える自分の地域の金融、それがNPOバンクの魅力
ASJ:融資して本当に良かったなというエピソードはありますか?
植田さん:一段階ずつ発展していく団体には、特に付き合って良かったと思います。例えば杉並区で地域のサッカーチームを運営する団体で、当初は自分たちが使うグラウンド整備のための融資を行ったのですが、そこからチームのコーチの方が芝に興味をもち、幼稚園などの芝生管理もやるようになり、事業化されました。最近では天然芝だけでなく、人工芝と組み合わせたハイブリッド芝の輸入代理店を始められて、その事業に対しても再び融資することになった例が最近嬉しかったエピソードですね。
また、東京CPB独自の仕組みとして、ともだち融資団というものがあります。これは、融資を受けたい方が、事業への賛同者を集めることで融資が受けやすくなる、というものです。少しリスクが高い場合でも、この団体を応援したい、という思いを持った出資者が集まれば融資を受けられるもので、このような応援団は地域には必要なものだと思っています。
ASJ:営利目的ではないNPOバンクの運営は、厳しいのでしょうか?
植田さん:法律的に低利でしか貸せない上、配当金も出せないためやはり運営は厳しいです。なので、サポート会費や寄付を財源として大事にしています。問題なのは、NPOバンクにぴったりと当てはまる法律がないことです。NPOバンクを全国各地に作りたいけれども、制度的に難しいために現在は全国で14、ここ最近はあまり立ち上がっていません。NPOバンクという事業の柱だけで運営するのは難しく、ほとんどがボランティアベースの運営です。
ASJ:クラウドファンディングやふるさと納税にはない、NPOバンクの魅力は何でしょうか?
植田さん:物理的に、顔の見える関係が作れるところです。この時代でネットだからこそ遠いところにいる人を応援できるという良さもありますが、地域を良くしたいという思いの中では、人と直に繋がりたいと思う人にはNPOバンクがおすすめです。
ASJ:最後にお聞きしたいのですが、「より良い社会」の植田さんのイメージをお聞かせください!
植田さん:どんな人でも、自分を大事にしつつ、他の人のことにも関心を持ち、何がお互いに喜ぶことになるか考えられる社会になってほしいです。それが隣の人かもしれないし、地球の反対側の人かもしれない。なので、想像力が大事ですよね。相手の生活やこれからの世界を想像することが大事だと思います。「お金」で豊かというより、「心」が豊かになることがより良い社会の姿だと思います。
【編集後記】
今回植田さんにインタビューさせていただきました、エコ貯金プロジェクトのすねです。植田さんにお会いするまで、 そもそもNPOバンクというものが存在していること自体、知りませんでした(お恥ずかしい限りです)。
私はエコ貯金プロジェクトという、お金の動きを考える活動に携わっていますが、お金、ビジネスというものはどうも血が通っていないように感じてしまって、苦手でした。しかし自分の意思を持ってお金を使うことが出来れば、社会にとっても自分にとっても良いお金の循環を作り出すことが出来ることをプロジェクト、また今回のインタビューを通して学びました。
東京CPBさんがNPOバンクとして行なっている活動はまさに、地域のために良いお金の循環を作り出すものでそこに生まれるお金には温かい血が通っているもののように感じました。実際に日本のどこかで生きていても、どこかの地域に属している、ということは今の社会ではなかなか実感するのは難しいのではないでしょうか。この記事が、自分の住んでいる地域でなにが起こっているのか、自分に還元できるものはないか、考える機会になっていれば、と願います。
東京CPBさんのホームページ→https://www.tokyo-cpb.org/
私たちと一緒に、持続可能な社会をつくるために活動してみませんか?
A SEED JAPANでは随時活動メンバーを募集しています。詳しくは以下のリンクをご覧ください。
http://www.aseed.org/admission/
2019-04-03